タイトル 楽園の眠り
著者 馳 星周
出版社 徳間書店
(あらすじ)
登場人物は、親から虐待されて育った高校生、妙子。そして、妻に去られ、幼い我が子を虐待している現職の刑事、友定伸。恋人に暴行され、流産して入れられた病院から脱走した妙子は、偶然、伸の息子と出会い、虐待されていることに気づく。彼女は瞬時に「この子を救って、この子の母親になろう」と決意する。子どもに「紫音(しおん)」という新しい名前を付け、伸の執拗な追跡を逃れようと、東京中を必死にさまよう。その最中、ヒデという協力者を得るが、一方、伸も奈緒子という協力者を得る。奈緒子も自分の子どもの虐待を止められず苦しんでいた。携帯電話、メールを駆使しての息詰まる追跡、逃亡劇。この痛みと苦しみに満ちた人々が繰り広げたドラマの幕はどのように下ろされるのか
(ひとこと)
今回の本には、アル中は登場しない。しかし、コントロール不能な何かに執りつかれ、やめられず、とまらず、理解されず、苦しみ、のたうつありさまは、アルコールに打ちのめされた私たちの経験とシンクロするのではないだろうか。暴力も嗜癖なのだ。
この作者は、いつも小気味がいいほど、救いのない結末で驚かせてくれるが、今回に限っては、ひょっとして・・・と思わせておいて、やはり「ここまでやるか」という結末にしてくれた。そこが、さすが、なのだと思う。幼児虐待という底知れぬ嗜癖にとらわれた者の物語。安直な救いがもたらされても困るのだ。アル中をはじめ、中毒者、嗜癖者が登場する小説や映画は数多い。だが、希望をもたせる結末には、案外、がっかりさせられることが多い。そう簡単にいくものか、と思う。
それにしても、この物語。虐待するほうもされるほうも、ひどくあわれでやりきれない。酒にしろ、薬物にしろ、対人関係にしろ、すべての嗜癖者に、人知を超えたものの力が救いをもたらしてくれることを祈らずにはいられない。他になにができるだろう。