
青春を飲み潰す 第1章
大学生のころの飲み方を振り返ってみます。
とにかく毎晩飲みました。それもマトモな量じゃないんですね。私の場合、最初から「飲めば潰れるまで」が基本です。通学に1時間かかり、授業があって、バイトがあり、サークル活動があり…で、アル中デビューはしたものの、生活もそれなりに忙しく、さすがに朝・昼から飲むとかいうことはありませんでした。
寝る前に必ず飲んで、ウイスキーのフルボトルが数日しかもたないんです。休前日なんかはウイスキーとかジンとかのボトルを3分の1とか半分とか軽く飲んでいました。18歳のときからこうだったわけです。もう、常習的に飲むようになって数か月も経たないうちに、酒が体の中に常駐してしまった…立派なアルコール依存症になっていたものと思われます。
「酒が体に常駐する」というのは、ワタシ的なアルコール依存症の表現です。体に常駐する、抜けると尋常な状態でなくなる…そうなってしまっていたんですね。だから、学校にいても、酒がずっと残ったまま過ごしてるという感じです。落第しない程度には勉強しましたが、そんな状態ですから身につきません。自分でも気がつかない間に、学業への意欲は失っていました。レポートも、酒飲みながら書いたり。
せっかくのキャンパスライフなのに、楽しくないんです。面白くない。ワクワクしない。自分でもなぜ楽しくないのか、面白くないのか、ワクワクしないのか、不思議でした。
でも、そのことをもっと掘り下げて考えたり、真剣に向き合ったりすることはしませんでした。これはひとつにはアルコール依存症の症状でもあり、もうひとつには、それまでの私の生い立ち、生き方にも問題がありました。要するに酒につかまる前の生活、人生がそもそも、楽しくも面白くもなんともなかった。生きるのって大変で苦しいことばかりだ、という思いしかなかったということです。
酒につかまる前の生活が自分にとって豊かで楽しいものであれば「あの頃はよかった。あの頃にもどりたい」と思える…そういう発想が出てくるのでしょうが、ところがどっこい、もともと自分を押し殺すようにして嫌々生きていたところへ、酒を使って心を鈍麻させてやり過ごすことが習慣になってしまいました。
客観的にみれば、明らかに「人生を無駄にしている。もったいない」状態です。うすうす「なんで私こんなことしているんだろう?」と気付いたときに「本来の自分に戻ろう」と真剣に自分を立て直す努力がなぜできなかったのか? なぜ、自分で無理なら誰かに相談して解決しようとしなかったのか? それは私自身に「戻るべき自分」がなかったからだと今なら分かります。
自分が、何をやってる時が楽しいのか、面白いのか、自分がこれからどうなりたいのかとか、いちばん模索しなければいけない時期を飲み潰してしまいました。
若いときにやっておけばよかったこと…旅行なんかもそうですね。これは大学時代には限らないですが、若いうちに海外に出るとか。酒を飲んでなければ、多分できた。もともと私は、そういう志向が強かったと思うので。でも、結局、しなかった。勉強も好きで、面白かったんですけど、打ち込む気力は酒に奪われました。将来のためになにかしようとかいうことも、考えたくなくなっていました。子どもの頃、誓いを立てた「立派な職業婦人になる」という夢だけは手放さずに持っていましたが、具現化する力は失っている。「こうなりたいよなあ」という思いにすがる一方で、実際の自分は「次の一杯」のことが最大の関心事。思いと現実がどんどん乖離していく…そういう状態でした。
アルコールでの失敗について話をします。
大学生になると、新歓コンパからはじまって、合コンとか、打ち上げとか、しょっちゅう酒を飲む機会があるわけです。基本的に私は「酒が飲める人、強い人」として過ごしていたんですけれども、やはり失敗はありました。折に触れて大失敗も。
印象に残ってるものをあげると、大学2年生のときに、サークルのイベントの打ち上げがあって、飲み過ぎて潰れました。男の子に担がれて帰宅したんですね。帰宅ったって、自分の家がどこなのかちゃんと説明ができないもんだから、担いでいた男の子たちも相当苦労したと思うんですけど、タクシーに乗ってきて、住所表示を頼りにして、連れて帰ってきてくれました。そのとき、乗せてきてくれたタクシーの運転手の方が怒って、うちの玄関を蹴飛ばしに来た、と母が後で言ってました。きっと私が散々迷惑をかけて、怒らせるようなことをしたのでしょう。
もう1つの大失敗が、卒業コンパです。学部のクラスでの卒コンで飲みすぎて正体不明になりました。クラスメイトが心配して、救急車呼んでくれたんですよね。それで近くのアルコールの患者を扱う病院に運び込まれました。よく覚えてませんが、特別室(20年以上の後にそれが「がっちゃん部屋」と呼ばれると知ります)に入れられたんだと思います。一晩入れられて、翌日、一般の病室に移りました。目を覚ましたときは、本当に恥ずかしかったです。トイレに行く途中に、他の入院患者から「昨日は本当にひどかったぞ」と言われました。あとから看護師さんに殴りかかった、とも聞かされました。このあたりで本来ならアルコール依存症と診断されるか、もしくは問題飲酒者、あるいは酒乱でもなんでもいいので、周りから「お前は酒に問題がある」と厳しく直面化させられるべきでした。もちろん、直面化の機会があったとしても活かせたかどうかは疑問ですけれども。