
GLP-1って何?
最近、「GLP-1」という言葉を見かける機会が増えてきました。
「GLP-1は、糖尿病や肥満の治療に使われる薬で、服用した患者の多くから『酒を飲みたくなくなった』と報告されたため、依存症の治療薬にもなるのではないかと言われている」
…と早合点して「思わず、いいじゃん」と思ってしまいました。が、やはりこの捉え方は正確ではありません。
まず、GLP-1は薬の名前ではありません。もともと私たちの体の中にあるホルモンの名前です。このホルモンの働きをまねて作られたのが「GLP-1 受容体作動薬」と呼ばれる薬です。糖尿病や肥満の治療で使われているオゼンピック®やウゴービ®といった薬がこれにあたります。
GLP-1は食後に分泌されるホルモンで、食欲を抑えたり、血糖値を調節したりする働きをします。このホルモンは、脳の「報酬系」と呼ばれる部分に関わっていると考えられています。「報酬系」というのは「もっと欲しい」「またやりたい」といった欲求に関係する仕組みです。
そのため、GLP-1の働きを強める薬を使うことで、食べ過ぎが抑えられたり、衝動的な欲求が弱まったり、といった変化が起きるとされています。
…なるほど、それで、服用した患者さんたちから「酒が飲みたくなくなった」という報告があがってきているのですね。
従来の薬との違い
現在、国内でアルコール依存症の治療で使われている薬としてアカンプロサート®があります。この薬は脳の興奮を鎮めて「飲みたい!」という強い欲求(渇望)を抑える薬です。
一方で、話題のGLP-1はナルトレキソン(※国内未承認)という薬に似た仕組みで、お酒による「快感(報酬)」を感じにくくさせることで、飲みたいという欲求を弱くさせるという効果が期待されています。
とはいえ、現時点では慎重に見る必要があります。 研究の多くはまだ観察レベルであり、 「本当に薬の効果なのか」 「どの程度の依存に効くのか」 といった点ははっきりしていません。 また、アルコールについては比較的効果が示唆されていますが、 他の薬物依存(オピオイドや覚醒剤など)については、 まだ研究中であるようです。
また、そもそもアカンプロサートもナルトレキソンも「補助的な役割」として使われることが前提で、通院や自助グループなどと組み合わせて回復を目指す、という位置づけです。
飲まないこと、イコール回復ではない
GLP-1受容体作動薬の有効性が証明されて、アルコール依存症の治療薬となったとしたらすばらしいことだと思います。けれども、やはりアカンプロサートと同様に補助的な位置づけになるかと思います。
当事者として、喉から手が出るような「飲みたい!」という欲求が抑えられるのであれば、本当にありがたいことです。治療につながるチャンス、回復につながるチャンスが増える可能性が高まるからです。
そうはいっても、薬を一生飲み続ける訳にはいかないでしょう。また、ここが大切なところですが、薬に頼ったとしても頼らなかったとしても 「飲まないでいること」は「回復」とは異なります。
アルコール依存症の回復は、 単にお酒をやめることだけではなく、 生き方や考え方、人との関わり方を見直していくプロセスでもあります。たとえば、なぜ飲んでいたのか、どうやって生きづらさと向き合うのか…こうした部分は、飲まないでいるだけでは変わりません。
アルコール依存症からの回復をめざそう!
アルコール依存症は死に至る病です。有効な薬、医療者、支援者、自助グループ…すべての力を借りてアルコールから離れなければ生き続けることは難しいと言えます。
そして、アルコールから離れた後も、生涯に渡って回復の道を歩き続け、長い時間をかけて新しい人生を築いていくのがこの病気でもあります。
この視点は、どんなに新しい薬が登場しても、変わらず大切にしていきたいところです。
※この記事は2026年3月現在の情報をもとに書いています。
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参考資料
●久里浜医療センター アルコール科

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