心は踊る、旅の空 ―― 1999年 ――

心は踊る、旅の空

ひとり異国の地を旅することに魅せられてはや2年。
当分やめられそうにない。
海外旅行に出かける人は数多いが、「ひとりで」という人はまだ少数派ではないだろうか。
まして女性なら、なおされである。

ひとり旅はいい。なぜか?
まず冒険心がかき立てられる。
加えて、ふだんの生活では決して考えられないことを考えさせられる。
感受性も鋭くなる。
同行者がいると、こういった良さに雑音が入る。
ひとりは自由気ままに動き回れるのがいい。
トラブルを乗り越えたときの満足感も大きい。
と、ひとり旅のよさを挙げてみたが、当然デメリットもある。
ひとことでいうと「危険と不便」だ。
すべてが自分の判断にかかっているため、疲労、病気など判断力が弱ったときが危ない。
信用できる人がいない状況からくる不安、ストレス、不便も山とある。
宿代も割高だし、食事もひとり。夜、話をする相手もいない。
メリットよりデメリットのほうが、はるかに多いにちがいない。
が、誰がなんと言おうと私はザックを背負って、ひとりで旅に出る。旅はロマンに満ちている。
これまでの旅で印象に残ったことを少々。

旅情ふつふつ

「異国情緒」という言葉がある。
広辞苑には、「外国らしい風物などに接しておこる気分。エキゾチシズム」とある。
異国情緒にひたるのは、外国を旅する大きな楽しみのひとつだ。

ネパールのアンナプルナ地域をトレッキングしたときのこと。
トレッキング中、いろいろな動物と出会った。
山の民は動物とともに生活している。
牛、馬、羊、ロバ、山羊、犬、猫、にわとり、などなど。
私がとりわけ気に入ったのは隊商のロバである。
ロバを10頭くらい連れた隊商をよく見かけた。
ロバの背には、穀物の袋や、バケツや布地などの日用品が負わされている。
ときどきいななくのもいるが、ほとんどが黙々と歩き続ける。
ティカ(ヒンドゥ教徒の習慣、額に赤や黄色の粉をつける)しているのもいるし、頭に冠のような飾りを載せているのもいて、おもしろい。
ロバたちは、首に鈴をつけていて、歩くと独特の音色が響きわたる。
その音色を聞くとひしひしと旅情を感じたものである。
あるとき、吊り橋を渡ろうとすると向かい側からロバの一群を連れた隊商がやってきた。
山あいの吊り橋の上であるせいか、例の鈴の音がよく響く。
ロバが渡り終わるまで橋を渡ることができない。
トレッキングガイドがひとこと
“Traffic jam” とつぶやいた。

おなじく動物で思い出すのはインドのジャイプル。
古い美しい街並みが残っており、名所も多い観光都市である。
ラージャースターンの州都でもある大きな町だ。
立派な大通りでは、車やオートバイが飛ばしている。
金持ちが多いのだろう。
ところが驚いたことに、ラクダと象が車道に現れた!
堂々と荷車を引き、背中には象使いも乗っている。
それだけでも充分びっくりした。
だが、ラクダが想像していたよりはるかに大きな動物であることにも驚かされた。
象が大きいことは知っていたけれど。
しばらく観光していると、どうやら町の人には珍しくもなんともない光景らしい。
ラクダも象もたびたび通る。
それにしても、荷物を運ぶなら、道には車だってトラックだって走っているではないか。
それでもまだ、ラクダや象が活躍しているとは。
彼らの歩みはゆっくりだ。
その一歩一歩を見ていると、ふと、この町が砂漠の入口に位置することを思い出した。
彼らは砂漠を渡ってきたのかもしれない。
あるいはこれから砂漠へと向かうのか。
果てしなく広がる乾いた地とその上を吹きつける風を思った。
旅の「びっくり」は、すぐに「旅情ふつふつ」にかわるのだ。
旅の話は尽きることがありません。続きはいずれ、また。

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