タイトル 「ホームレス」(短編集「友がみな我よりえらく見える日は」より)
著者 上原 隆
出版社 幻冬舎(アウトロー文庫)
(あらすじ)
竹中工務店で内装の設計をしていた片山夏樹氏(50歳)は、現在、ホームレス。本、雑誌拾いで日銭を稼ぎ、段ボールハウスに住まう。生活の拠点は新宿。
著者にむかって、35歳で会社を辞め、アルコール依存症となり、さらにホームレスになるまでのなりゆきを語る。
(ひとこと)
本書は、ノンフィクションの短編集だ。この短編も、著者が段ボールハウスで一泊し、雑誌を拾って金に換えるまで、片山氏につき合い、それをルポしたものである。
著者の上原氏は、パステルカラーでぼかしたようなやさしい目で人を見ている。しかし、アル中の目から片山氏を見ると、やはり「酒を手放さないアル中」ということがはっきりと分かってしまう。彼は、うそをついている。会社の、部下に対する不当な仕打ちに怒りを覚えて、上司をなぐったから会社を辞めたというのは本当かもしれないが、アル中になったのはそれが原因ではないはずだ。40歳での自分の浮気が理由で離婚し、妻子と別れた、というのも本当かもしれないが、原因は浮気だけではないはずだ。一人暮らしになってから福祉課の人に助けられて依存症を克服した、というのも嘘だ。アパートに友だちが立ち寄って酒を飲みにくるから、という理由で引越しを繰り返し、とうとうアパートに住む金が尽きたからホームレスになったというのも、言い訳だろう。実際、所持金2万円をもって最後のアパートをでた足で、酒を飲んでいる。
著者は「アル中」を理解していない。が、片山氏の人間性は的確にとらえている。見方がやさしすぎるきらいがあるけれども。片山氏は事実、やさしすぎる人なのだと思う。
この話は、こんな一文で終わる。著者は一箱のタバコを片山氏に進呈する。すると、片山氏は、一本ぬいて深々と吸ったあと、「彼はタバコの箱を自分のポケットにしまわずに、彼と私のちょうど中間の位置に置いた。」この描写が秀逸だ。
・ スリップ防止度 ☆☆☆☆(ホームレス生活は、とても大変そうだ)
・ 飲酒欲求発生度 ☆(同上)
・ 総合評価 ☆☆☆