お酒を飲まずに生きるには

第4回  「夜消える」(短編集「夜消える」より)

タイトル 「夜消える」(短編集「夜消える」より)
著者 藤沢周平
出版社 文藝春秋 ※文春文庫版で読みました

(あらすじ)
まだ、東京が江戸だった頃。おのぶは四十になるいい女。だが長年連れ添った亭主の兼七は飲んだくれ。奉公にでた娘のおきみも父親を恥じて家には近寄らない。兼七の酒はますますひどくなる。おのぶは愛想を尽かしながらも、もともとは腕のいい雪駄職人で気弱な兼七が、ときにあわれで見捨てることができない。娘のおきみに縁談がもちあがった。が、飲み代ほしさにおきみの奉公先に押しかけた兼七のせいで、破談になりかかる。「おとっつぁんなんか、死んでくれればいいんだわ」と泣く娘の言葉を聞いた兼七は・・・

(ひとこと)
まだ私が酒を飲んでいた頃。勤め先の東大出の先輩が煙草をふかしつつ、しみじみと言った。「最近、藤沢周平の世界がよくなってねえ。オレも本当のおじさんになった。」なんと答えたか覚えていないが、私自身、もう、そのときの先輩の年齢になってしまった。

さて、このごく短い物語。すばらしい。私の偏狭な人間観をゆるがしてもらった。アル中の姿が、一文字のむだもなく描かれている。妻のおのぶは酒に取り憑かれた夫の業を、直観的に理解し、受け容れようとする。私はそこに、深い「情」を感じた。「愛」といってもいいけれど、やはり「情」だろう。じんときた場面を引用してしまおう。

・・・おのぶは、兼七の眼を見た。どことなく青光りするような眼が、おのぶを見ていた。だがそれはむかしの兼七の眼ではなかった。兼七の眼はおのぶに向けられていたが、何か遠くにあるべつのものを見ているように思われた。心を通じる道が閉ざされていた。兼七が、もう常人にはもどれないのを、おのぶは感じた。そして自分の人生も、終わったとおのぶは思った。おのぶは兼七の胸を掻き寄せて抱いた。
「いま、お金をあげるからね。行ってお酒を飲んでおいで」
「共依存」なんかとは対極の、おのぶの生き方。夫を持たぬと決めた私の胸にぐさり、とくる。

・ スリップ防止度  ☆(兼七の身になってしまうとねえ)
・ 飲酒欲求発生度 ☆(でも、兼七はかわいそうだし飲まないでおこう)
・ 総合評価 ☆☆☆☆☆

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