(今回のアル中本)
タイトル ≪姫四郎医術道中5≫嘉永六年のアルコール中毒
著者 笹沢左保
出版社 徳間文庫
(あらすじ)
この≪姫四郎医術道中≫シリーズの主人公、姫四郎の父、内藤了甫は「関八州随一の名医と謳われた」が賊の手で非業の死を遂げ、息子である姫四郎は「あらゆる望みを捨てて世の拗ね者となり、無宿の渡世人として」「人を生かすも殺すも道楽にすぎず」と、「右手で医術を施し、左手で長脇差を抜く」生き方をしている。
アル中が登場するのは、2話の「闇が怒った小仏宿」。
姫四郎は甲州街道の横山宿、居酒屋「一ノ家」の女将、お百を癒すが、そこにはアル中の居候、平右衛門がいた。彼は日野いちばんの商家の主人だったが、今は、かつて自分の店の奉公人だったというだけの縁で、女将に面倒見てもらっている。平右衛門は博打がきっかけで転落し、悪人につけこまれて二人の娘まで、連れ去られてしまった。今は文無しのアル中としてすっかり落ちぶれ、酒毒に蝕まれて弱り切っている。
姫四郎はひと肌脱ごうと、酒毒を抜く妙薬『紅雪』の入手と娘たちの救出に奔走するが・・・
(ひとこと)
実家の本棚で発見した1冊。タイトルに魅かれて思わず手にとり、さくさく読んでみたが、面白かった。笹沢左保さんの本は、昔から本屋にたくさん並んでおり、名前は知っていたけれども「木枯し紋次郎」シリーズを書いた人だったのですね! どおりで面白いはず。
さてこのお話、アル中本の短編として、とても良い。
話の展開もテンポよく面白いし、アル中のありさまが間違わずに書かれている。アル中の平右衛門はまず博打、続いて酒、と依存体質の行動パターンに忠実だ。また、いったんは苦しみながら切った酒なのに簡単にスリップ(再飲酒)してしまうふがいなさも、いかにもアル中特有のありようだ。アル中がちゃんと書ける作家は、一流だ(多分)。
この作品でもうひとつ目を引くのは、酒毒を抜いてくれる『紅雪』という薬。調剤法が載っている。将来何かの役に立つかもしれないので引用させていただく。この薬、解酒毒の他、治煩熱、利五臓、除毒熱、治寒傷、脚気、頭痛に効くそうだ。
(以下、引用 P82より)
当時としては『紅雪』ほど、複雑な処方の漢方薬はほかになかった。
朴消(自然の硝酸ナトリウム)、羚羊角、黄岺、升麻、赤芍薬、人参、檳榔子、生甘草、枳殻、淡竹葉、木香、山梔子、桑白皮、葛根、大青藍葉、蘇木、木通を細粉とし、水二斗五升が九升になるまで煮詰めて濾過する。
更に手を休めずに掻き回し、冷えるのを待って蒸溜器へ移し、麝香、辰砂、竜脳を加えて蒸留し、その結晶を採取する。これが天下の妙薬『紅雪』だったのだ。
(引用、以上)
物語のラストはこの一文で締めくくられる。
「因に、群馬県金古の天田家秘伝の妙薬『紅雪』は、正徳四年(一七十四年)の創製で、いまからそう古くない昭和十六年まで製造販売されていたものである。」
・・・本当でしょうね? まあ、フィクションでも文句は言えませんけれども。
著者笹沢左保さんは酒とたばこをこよなく愛したそうだ。ウィスキーを2日で1本空けている、と明かしていたらしいが、酒の量では私の圧勝。
Webサイトがありました↓
・ スリップ防止度 ☆☆☆
・ 飲酒欲求発生度 ☆
・ 総合評価 ☆☆☆☆
(記:2016年6月2日)