タイトル ロデオ・ダンス・ナイト
著者 ジェイムズ・ハイム
出版社 早川書房(ハヤカワ文庫)
(あらすじ)
舞台はアメリカ、テキサスの田舎町。十年前に失踪した牧師の娘が白骨死体で発見された。自他ともに「有能でない」ことを認める郡保安官デューイーは事件解決のため、引退した元テキサス・レンジャーのジェレマイア・スパーに協力を求める。ガンで余命いくばくもない娘、夕食時にはすでに「ウォッカの臭いが漂ってくる」妻、生業の牧場経営の危機、家庭の問題を抱えるジェレマイアは捜査への協力を引き受けることを躊躇する。まして死にかけている娘は殺された牧師の娘と関わりがあった。しかし運命は彼にその役割を引き受けさせる。白骨死体の発見と同時に一組の親子が惨殺される強盗事件が発生。また、捜査していく中で明らかになった何者かによる町の複数の有力者への強請。平和と思われていた町は大騒動となる。ジェレマイアをはじめ、人種差別に苦しむ黒人の保安官助手のクライドや、その恋人で白人の郡地方検事ソーニャの必死の捜査により大騒動はひとつひとつ収束していく。ジェレマイア自身も事件に挑みながら、家庭の問題にも正面から向き合っていく・・・
(ひとこと)
主人公ジェレマイアにしびれた。折に触れて「どうにもならないことだ」とつぶやきながら厳しい現実に耐え、受け入れる。古風で、強くて無骨ないい男。とくに妻に対する思いが泣かせる。最後のほうで妻のマーサに酒をやめるように言うシーンがあるが、思わず「この夫なら妻に酒をやめさせることができるだろう」と思った。妻が酒を飲まずに生きていくために本当に必要なことを理解し、助けていけるのではないかと感じられた。アル中と関わる人の描かれ方に対して、このように感じられることは珍しいのではないか。
物語の舞台、テキサスはいまだ独立の気風を色濃く残した独特の土地柄だそうだ。おおざっぱにいえば保守的であり、人種差別や同性愛者への差別が根強く、物語のなかでもそのあたりの事情が語られている。読みながらテキサスの地に滞在したような気分になった。文庫本で六百ページと長いが面白く、あっという間に読み終わったこの本は、作者のデビュー作とのこと。シリーズとして、その後のジェレマイアとマーサを描いてほしいと願っている。