第2回 「死神」(短編集「死神」より)

タイトル 「死神」(短編集「死神」より)
著者 篠田節子
出版社 文藝春秋社 ※文春文庫版で読みました

(あらすじ)
主人公、重松寛治は、市の福祉事務所の係長。かつて市職員の労働組合の書記長までつとめた男だが、権謀術数にたけていないため追い落とされ、福祉事務所でケースワーカーを30年やっている。うち、20年は、ワーカーホリックとして、直近10年は、アル中として過ごし、ぼろ雑巾のようになっている。彼はある日、かつて深く関わりあった担当ケースである高木と再会する。約20年ぶりに会った高木も、もともとのアルコール依存症が進んでおり、死にかけていた。立場こそ違え、ともに「死神」のような有様になっているふたりだったが、重松は、高木に「ともに断酒しよう」ともちかけた。ところが、重松は断酒10日でスリップ(再飲酒)し、死線をさまよう。高木は、別れた妻子との再会を望んでのことか、病院で断酒を続けていたが・・・

(ひとこと)
著者の篠田氏は、実際に市役所の福祉相談員として働いた経験をもつ。アル中たちは事務所の常連さんであり、その生態についてはよくご存知だ。他の小説の中にも、ちょこちょこっと、アル中が顔をだし、その姿は的確に描かれている。
この物語の主人公の重松は、いかにも「アル中になりがちな性格」をしている。一本気で不器用で熱血漢。やりすぎ、はまりすぎ。途中、こんな描写がある。
「やればやるほど底のない仕事だった。熱意を持てば持つほど迷いばかりが深くなり、深夜に事務所を出た後は、安酒場に足が向いた。(中略)重松には、若いケースワーカーたちの手際よさが理解できない。仕事の手際よさ、家庭生活の手際よさ、人間関係をさばく手際よさ・・・」
途中、引用されている短歌も、とても印象的だ。アル中本、短編の傑作だと思う。

・ スリップ防止度 ☆☆☆☆
・ 飲酒欲求発生度 ☆(主人公はもう酒の味などわからなくなっているようで、うまそうに飲むシーンはない)
・ 総合評価 ☆☆☆☆

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