タイトル 「今夜、すべてのバーで」
著者 中島らも
出版社 講談社
(あらすじ)
作家の小島容は、アル中。17年間、ウィスキーを毎日1本ずつあけて35歳で入院した。その時、γGTPが1300。彼は20代のころ、偶然、3人から「このままだと35歳で死ぬよ」と言われた経験をもつ。ひとりは医者、ひとりは占い師、そしてもうひとりは親友の天童寺不二雄。青春時代をともにした天童寺は20代の終わりに、酔って車にはねられて死んだ。
小島は、自分がアル中であると自覚しているが、酒をやめて生きていく自信はもてない。病院でいろいろな患者たちとの出会いつつ、体は回復に向かうが、外出時、スリップする。
スリップした翌日、天童寺の妹であり、小島のアシスタントをしているさやかが病院にやってきた。彼女がつきつけたコピー用紙の束。それは、天童寺一家に対しておこなわれた、精神科医によるセッションの記録だった。天童寺家は、不二雄とさやかの父親がアル中であり、機能不全を起こしていた。さやかは、「恥ずかしい家の話だったわ。でも、これが私の生きていく道を照らしてくれることになった。後で考えればね」といって帰っていった。それを読んだ小島は・・・
(ひとこと)
昨年の夏、らもさんが亡くなった。「ああ、とうとう逝っちゃたか、でも、もう充分、自分の仕事をやり遂げたんだな」と思った。ちょうど、アル中平均寿命52歳であったのも、見事かもしれない。でも、ファンとしては、やはり、惜しい。
この小説は、著者自身の体験がベースになっているようだ。作中のいろいろなエピソードは、他のエッセイや作品でも書かれている。主人公、作者ともアル中。アル中本の王道をいっている。らもさんの本にしてはめずらしく、引用や、説明が多い。それだけ、「アルコール中毒」という病気にこだわりをもって書かれた作品であることがわかる。そのわりには全体として軽快な印象を保っており、読後感は爽快だ。楽観的すぎる、アル中はこんなもんじゃない、と、つい言いたくなってしまうのは、当のらもさんが、ついに本気で断酒に取り組まずに亡くなったせいか。
・ スリップ防止度 ☆☆☆☆(スリップのシーンがリアル)
・ 飲酒欲求発生度 ☆
・ 総合評価 ☆☆☆☆☆