お酒を飲まずに生きるには

酔いざめ川柳 2017年

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ああ お前は 幸せなのかと 猫 抱きしめて おらが春

ただひとつ 暗唱できるは 「断酒の誓い」

(正月のごあいさつ)

今年の抱負。

毎年体重を減らすとか勉強するとか同じようなことを言っている。が、今年はひと味違う。

「一秒でも愉快に過ごす」

アル中的な考えや感情は、一日断酒を十五年続けさせてもらっても毎日出てくる。それを否定するのではなく、道具として使って愉快に生きたい。

(二〇一六年十二月某日 自分に残された初春は、あと何回)

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花柄と ピンク色 好きになりけり 数え年 五十

なにもかも 冷やしてしまう酒 飲み続け

(如月のごあいさつ)

昨年十月、例会の司会を次の方にバトンタッチした。十三年と半年の間、毎月第三金曜日、例会場の司会者席に座らせてもらった。欠席の際、役割を代わっていただいた会長、指名もれ、名前の呼び間違いなどなど、数々の失敗に寛大に対応していただいた出席者のみなさまに感謝。手渡してみると、いかに大切な役割だったか分かる。十三年と半年、誰の飲酒も止められなかったけれども、ほかならぬ、私自身が最初の一杯に手を出さずに済んだ。

(二〇一七年一月某日 祝! 酔いざめ川柳十五周年)

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昨年で もう着納めのはず このコート

またたびは なめさせませんと 大真面目

(弥生のごあいさつ)

我が家に里見(三毛猫・推定五歳♀)がやってきて早や二年。うちの子だけよければいいとは思えず、地域猫の保護活動に参加することに。主催者は仕事の合間に私財を投じて猫を助け、すてきなお屋敷をシェルターにしてしまった。三十匹の猫が闊歩する中、「猫に守られている気がしますよ」と笑う。田舎ではこういった活動は本当にやりにくい。それでも寒風吹きすさぶ漁港で猫や活動仲間と過ごすのは楽しい。それもこれも一日断酒のおかげ。

(二〇一七年二月某日 二月(にゃん)二十二日(にゃんにゃん)は猫の日)

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縁あって ダンゴムシ 死ぬ 四畳半

「飲んでないよ」と 空を仰げば 返事あり

(卯月のごあいさつ)

田舎では、贈答が多い。職場のバレンタインの義理チョコ、ホワイトデーのお返しもいまだに健在。夫の職場で職員の出産が相次いだ。さすがに品物ではなく、皆でお金を包むことになった。ちなみに社長は「おんぶ紐」も贈ったそうでほほえましい。社会で贈答はつきものだけれども、このような場合、とにかくお返しはよこさないでほしい。新米ママパパと子宝のために使ってくれなきゃ。

(二〇一七年三月某日 断酒会では「御恩送り」で、つじつま合わせ)

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コンビニの 裏は わりかし 安普請(やすぶしん)

満開の 桜 二十五度くらいの 酔わせぶり

(皐月のごあいさつ)

近しい親戚が宮司を務める神社の本殿・拝殿が、放火により全焼した。わずかに柱と土台、屋根が炭になって残されている。子どもの頃から親しんだ場所なので、膝の力が抜けた。けれども本殿の後ろの山容、境内から眺める鏡ケ浦の美しさにはいささかの変わりもない。

犯人は生活苦のため刑務所に入りたかった六十代の男性。所持金二十一円で、酒を飲んでいなかったところをみるとアル中ではなさそうだ。そこのところはなんだかほっとした。

(二〇一七年四月某日 諸行無常の庭に桜の花咲く)

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目指さずに ただ泳ぎおり こいのぼり

ズブロッカの ような 風に吹かれて 夏 近し

(水無月のごあいさつ)

田舎で低収入かつ低コストで生活をしていると、さまざまな知識や技術が必要となる。プロのスキルでなくてよい。少し分かる人、ちょっと上手い人の力を借りたい場面が多々ある。庭の手入れ、日曜大工的な仕事、中古車の選び方、荷物の運搬などなど。おかげで誰かに教わったり、頼んだりする機会が多くなり、生活が面白くなっている。一日断酒と同じく、人の力をありがたくお借りして楽しく生きたい。

(二〇一七年五月某日 回復にプロはなし!)

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洗濯に 草刈り 飯炊き 掃除の 誕生日

五臓六腑 あふれて 脳に 染みわたり

(文月のごあいさつ)

アメリカの著名な美男俳優がアルコール依存症のリハビリ施設に入ったと報道された。アル中でよくこれまで俳優業が務まったよなあ、と本人と周りの苦労が思われる。気になったのが日本の報道で使われている「克服」という言葉。この病気は克服するものではない。克服できないのが病気の本質だからだ。

それはともかくとして、彼にはぜひ来日して断酒例会に出席してもらいたい。松戸へも来て一緒に写真を撮ってもらえないかしら。うっとり。

(二〇一七年六月某日 ブラピ、がんばれ!)

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嗚呼 世の中に ブルボン 森永 なかりせば

スーパーの かごに 酒 二本だけ転がる 剣呑(けんのん)さ

(葉月のごあいさつ)

今年も梅仕事の季節がやってきた。梅の香りがこの上なく好きなので、エッセンシャルオイル(精油)や香水、お香などを探してみたが意外にみつからない。そこで、コップに梅の実を入れ、日になんどもくんくん嗅いでいる。その偏執ぶりが我ながらアル中っぽい感じだ。ネット通販のおかげでなんでも手に入ると錯覚しがちな今日この頃。「今ここ」にしかないものをありがたく思う感覚が新鮮だった。

(二〇一七年七月某日 梅酒をもっと飲んでおけば)

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網戸から 家の事情 流れて 月 満(み)てり

ビールより 高い アイスクリーム 匙(さじ)に 溶(と)け

(長月のごあいさつ)

地元の保健センターで月に一度「断酒学級」が開かれる。そこで体験談をさせていただき、同時に「ARASHI(アラーシー)」という、カードゲーム型依存症治療ツールを紹介した。依存症治療のトレンドは「いかに治療を継続させるか」になっているように思う。「ARASHI」もその流れを組むツールのひとつだ。私はアルコール依存症の当事者で、自助会を断酒の縁(よすが)としてきたが、実際、自助会への参加を続けられる人は少ない。まずは当事者が治療の現場からドロップアウトしないように、という考え方はとてもよいのではないかと思う。

(二〇一七年八月某日 すべての治療は 自助会参加への道のり)

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爆睡の 恋しや 夜の コップ水

飲んだって 払えなかろう 暑気払い

(神無月のごあいさつ)

所用で東京の代官山に滞在している。おしゃれな高級住宅街と言われているが、坂は多いし安いスーパーは遠いしビンボー人には入りにくい店ばかりで気に入らなかった。けれど「住めば都」。三日目にはすっかり落ち着いた。もともと私は、いろいろな場所に行ったり新しいことを経験したりすることが大好きだった。酒を飲んでいた十五年間だけ「酒を飲んだ状態」以外の変化を望まなかったのだ。残された人生で多くのすばらしいことが経験できますように!

(二〇一七年九月某日 MONSOON CAFEにてコロナビールを横目に)

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酒 減らぬ 宴会 長引く 秋の所為(せい)

どんな日も 一日 続いて 十六年

(霜月のごあいさつ)

十月に表彰状をいただいた。受領時「以下同文」ではなく、全文読み上げていただけるのがうれしい。晴れがましいではないか。子ども時代はよく賞状をもらったが、酒を飲むようになってから、とんと縁がなくなった。そもそも誰からも誉められなくなり、たまに良いことを言ってもらえるときも、言葉には多分に「同情」の気持ちが込められていたような気がする。

表彰状のおかげで、もう「人から誉められること」を望まなくてよくなった。

(二〇一七年十月某日  あと何枚いただけるかな?)

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残り二枚 カレンダー 壁に揺らいで 柿 甘し

あの世では 宴会やるのか 例会やるのか 断酒会

(師走のごあいさつ)

顔を見れば必ず言葉をかけてくださった断酒会の先輩がお二人、続けて他界された。もうこの世ではお会いできないと思うと、とても寂しい。けれども断酒会の会員は、死んだまま例会に参加することになる。これはもう、そういう決まりなのでしかたない。例会には毎回、たくさんの死者が参加している。死を想って恐れるとき、そのことがいつも私を支える。

(二〇一七年十一月某日 秋 深まって 生きる気 満々)

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