お酒を飲まずに生きるには

酔いざめ川柳 2016年

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いやまさか 壊れていないか 体重計

めでたきは 酒 怖くなく 寝正月

(新年のごあいさつ)

酒がとまって最初の正月のことを思い出した。大晦日と三箇日は通っていたデイケアも例会も休み。家にいるのが怖くて日払いのバイトに出た。若い人にまじってピッキングという仕事をしたが、倉庫の中を駆け回ってクタクタ。それでも酒につかまるよりマシとなんとか続けた。寒さも昼食の菓子パンの味もよい思い出に変わった。今や正月で恐ろしいのは体重の増加だけ。ありがたい。

(二〇一五年十二月某日 来年も酒魔と仲良く)

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あばら家の いちばん温(ぬく)い場所 猫が知り

選べずに 飲んだ酒 みな 同じ味

(如月のごあいさつ)

昨年のこと。一月、レタス畑で働く。二月、猫を飼う。三月、仕事を増やす。四、五、六月は母の介護。七月、海外渡航の直後、逝く母を送る。夏以降、仕事の整理。自営業一本に絞る方針に。墓を立て、家の片付けと模様替えを敢行。今年も何でも来い! 恐れずにいこう。最初の一杯以外は。

(二〇一六年一月某日 祝! 酔いざめ川柳十四周年)

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手弁当 のぞき込まれて やや弱り

「下戸です」と なぜか いまだに 言いがたし

(弥生のごあいさつ)

「酒なし新年会」でアトラクションの司会をさせていただき、大いに楽しんだ。ステージに立つ方を格好よく紹介しようと思ったが、かなわず。お名前と曲名をそらんじることができない。プログラムに目を落としながらやっとのことで読み上げた。簡単そうに見えることも、いざ自分でやってみると難しい。アル中が酒を飲まないのは、言語道断。誰がなんといおうと、まったくもってものすごい。

(二〇一六年二月某日 不可能を毎日生きる)

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しっとりと 猫の重さや 春一番

クスリなら 捕まるのに 我 野放(のばな)され

(卯月のごあいさつ)

アルコール依存症からの回復を目指す者は、怒りを手放す必要がある。怒りは酒を呼ぶ。・・・のだが、元野球選手が薬物の問題で逮捕されてからの報道に触れるにつけ、私はぷんぷん怒っている。見当違いなことばかりが取り沙汰されているからだ。やめられないのが依存症という「病気」であること、回復は可能であること、そしてどうすれば回復できるのかということが伝わらなければならない。私もそのために動かなければ。

(二〇一六年三月某日 彼も生きづらかったんだろうな)

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酒 無くて 春眠むさぼり うぐいすの鳴く

アラ ワタクシ イタダケマセンノ と なぜか 女優風

(皐月のごあいさつ)

社員数名の小さな会社で働いたことが何回かある。いつも「社長がさっさと決裁してくれたら仕事がはかどるのに」と思っていた。今、主婦業とささやかな個人事業とで、何から何まで自分で決めて動かなければならず、社長さんたちの苦労が少しは分かるようになった。決めるのにはエネルギーが要る。でも、決めることができるのは、いいことだ。かつては「酒を飲む」以外の選択肢がなかった。あれでは選べなかった。

(二〇一六年四月某日 主婦業は社長業と同じですね)

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半期過ぎ やや ほっとする 年女

「アレルギーで」 と 酒断って 怪しまれ

(水無月のごあいさつ)

春まだ浅いころ、金柑(きんかん)をいただいた。初めて食べてそのおいしさにびっくり。実よりも皮のほうが甘いのも面白く「いただく」ことの有難味を知った。自分の生活、行動の範囲内で体験できることは限られている。外からもらえる何かを受け取ることがブレイクスルー(進歩・前進)の第一歩だ。一日断酒の継続も同じで、かつての自分の生活、行動から抜けるには仲間から「いただく」より他なかった。まったく知らなかったことを、自分の力だけで知ることはできないのだ。

(二〇一六年五月某日 次の年女では還暦!)

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薫風や ビールの 幻 連れて 抜け

酒 スマホで 注文しましたと 若手言い

(文月のごあいさつ)

週刊誌に載っていた橘高(きったか)薫風(くんぷう)の川柳が目に留まった。

「人の世は 嗚呼(ああ)からはじまる 広辞苑」

上手い! 文才も音楽、芸事その他の才も「ギフテッド」。天から与えられたものだ。何万人にひとり、その他大勢を慰め、楽しませる才能を授けられる人がいる。私のように無芸大食な者は、才ある人の作ったものを楽しませていただきながらのんびり生きるのがいいだろう。嗚呼(ああ)。

(二〇一六年六月某日 けど一日断酒も立派な才能)

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短冊は 絵馬より ロマンな 願い事

レジャーシート 敷いて ホップの苦みの 懐かしき

(葉月のごあいさつ)

もともとブレーキがいかれているアル中なのだが、壊れたまま走れた若い頃とはもう違う。疲れると、アクセルを踏んでもまるでスピードが出ない。そういうときは諦めてたらたら歩くか、休む。そのうち必ず走れるときがくる。そしたらまた進む。うん、これでよいのだ。もしかしてアル中でない普通の人々は子どもの頃からそうやってちゃんとスピード制御して生きているのか。いや、そもそも走らずに歩くべきなのか。正常運転への道のりは、やはり遠い。

(二〇一六年七月某日 ポンコツなのでゆっくり走りたい我が人生)

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なんとなく 手打ちで ちょっと 良い おかず

またたびを なめてみるかと 思う 業(ごう)

(長月のごあいさつ)

実家で片付けをしていたら、小学校を卒業するときに作った文集が見つかった。担任の先生に差しあげたものの写しで、作文や詩などが綴じてある。後に先生からお褒めの言葉をいただき、そのことが長い間、私を支えるチカラになってくれた。アルコール依存症で足踏みしていた頃も、ずっと。ちょうどこの「酔い覚め川柳」のことで、少しだけ悩んでいた時だったので、ジャストタイミングだった。やはり書くことは私にとって大切なことなのではないかと思う。

(二〇一六年八月某日 他に取り柄があるでなし)

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冷蔵庫の 扉 忍耐 強きこと

今日だけを 一日生きて 十五年

(神無月のごあいさつ)

十月に十五段の表彰状をいただく。「酒を飲んだこと」「酒を飲まなかったこと」。私が自分の人生で本気で取り組んだのはこの二つだけ。その二つの期間がちょうど同じ長さになった。あらためて、与えられた今日一日を大切に生きることを誓う。また、回復への道を歩き続けていたら、生きやすくて充実した生活を送れるようになった。そのことを、ひとりでも多くの人に伝えていきたいと思う。

(二〇一六年九月某日 仲間といれば大丈夫)

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汗 拭いて 仰げば マネキン 秋の服

回復者 誇れ 奇跡の 夜のお茶

(霜月のごあいさつ)

今、田舎に住んでいるので、外で会うのは知った顔ばかり。隣近所はもちろん、公民館で働く職員も、数少ないお店の主も顔みしり。これがとても心安らぐ。飲んでいた頃は人と関わるのが嫌なのに、人からからかまってもらいたいという矛盾した気持ちがいつも同時にあって、心穏やかに過ごせる日はなかった。今は、周りの人との関係が単純になって楽である。いつか、この土地で「あの人に頼めば悪いようにはならない」と陰で言われる「頼りにされる人」になれたらいい。

(二〇一六年十月某日 松戸の町が、大都会に見える!)

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食後より 空(す)きっ腹(ぱら)が 効くんじゃないのか 風邪薬

本年も 何より大事な 段 上がり

(師走のごあいさつ)

一年を振り返り、後悔していることがひとつある。アルコール健康障害対策基本法の基本計画案についてのパブリックコメントについて。今年の三月から四月にかけて募集されていたのに、意見を出さなかった。気づいた時には締め切られていたのだ。ああ、なんたる不覚。次のチャンスは見逃さないようにしたい。とはいえ、どんな失敗をしようとも、一日断酒が続いた良い一年だった。

天を仰ぎ、また、地に伏して感謝する。

(二〇一六年十一月某日 良い年だったのは「おかげさま」)

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