お酒を飲まずに生きるには

酔いざめ川柳 2011年

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忘年会 荒れた奴しおらしくして 新年会

コンビニの おにぎりなぞ 食わなくなり 家庭人

(正月のごあいさつ)
子どもの頃、正月が楽しみだった。新しい年が始まり、自分の可能性が無限に広がるように感じた。酒を飲みはじめてからは新年の抱負などまったく浮かばず、ただひたすら酒のことばかり考えていた。飲まなくなってしばらくたった今、やはり自分の可能性は無限であると感じる。今からでは実現不可能なことが多くなったが、今からだからこそ実現可能なこともまた増えたからだ。

(二〇一〇年十二月某日 感謝、飲まない年越し十回目)

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アル中の 目標 「人並み」 けもの道

初春や 飲まずに生きて これくらい

(如月のごあいさつ)
「酔いざめ川柳」の原稿の締め切りは毎月末日。そのため、月末が近づくたびに「うわ、ネタないかも、作れないかも」とそわそわする。しかしどういうわけかなんとかなってしまうか、してしまう。この「なんとかなるか、してしまう」というのは他のことにも応用がきいて気に入っている。今年も一年、自分でなんとかできることはなんとかし、できないことはなんとかなるのを待ちながら一歩一歩あるいていこうと思う。

(二〇一一年一月某日 そういえば 酒ない初春 十回目)

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スカートも 押さえなくなり 春一番

なぜかしら おそるおそる聴く 恋の歌

(弥生のごあいさつ)
近ごろ楽しかった酒やおいしかった酒のことを思い出せるようになった。酒にまつわる良い思い出を封印する必要がなくなったのかもしれない。テレビドラマや映画、本の中でおいしそうな酒がでてくると、一瞬うっとりする。またひとつ酒のとらわれから解放されたのかもしれないが、油断にもつながる。例会でせっせと悪い酒の話をしよう。

(二〇一一年二月某日 たとえばアジアの屋台で飲んだビール)

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雪 愛(め)でる 失業中の  気楽者 (きらくもの)

「花粉症」 季語に出世という うわさ

(卯月のごあいさつ)
しばらく前、ちょっとした体調不良で医師の診察を受け「重病の疑いあり」という結果に驚いた。後の検査でその疑いはきれいさっぱり消えたのだが、私が今この世から去るとしたら何を後悔するだろうかと考えた。多分こう思う。「もっと人を、世界を愛しておけばよかった」と。
(二〇一一年三月某日 愛されるより愛したい)

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春過ぎて 日ごと 薄くなる 窓の富士

まず先に なぜ買い占めない 一升びん

(皐月のごあいさつ)
震災後、私はどこか一部が故障したかのようになっていた。ちょうど自分の酒害を認めて受け入れることができなかったのと同じように、起きた出来事を受け入れることができなかったのだと思う。三週間近く過ぎたつい昨日、とつぜん被災者を悼み、思いやる感情が湧いてきて床に伏して泣いた。やっと故障していた自分の一部が動くようになった。

(二〇一一年四月某日 悼み、祈り、春の霞にとけよう)

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米を研ぐ 水 心地よく 五合炊き

ああ 時に 酒も飲まずに 酔っ払い

(水無月のごあいさつ)
十か月ぶりに髪を切りに行き、美容師さんとおしゃべりに興じた。彼によると「どういうわけか震災後、ばっさり(髪を)切ったり以前とは違う色に染めたり、思い切った注文をするお客さんが多くなった」とのこと。聞いてなんだかうれしくなった。多くの人たちが同じような気分になっているのではないか。髪型をキメて気分も新たに、この世界の中で今日からまた生きていこう!

(二〇一一年五月某日 今年も夏がやってくる)

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仲間との カラオケ うんと安くつき

洗濯物 のれんの ごとく 顔を打ち

(文月のごあいさつ)
母からさやえんどうを三株もらった。私がベランダのプランタに植え、その後はホタル族の夫がもっぱら世話をしている。株はそれぞれ「バース、掛布、岡田」と名付けられた。丈が伸びて花が咲き、小さな実をつけた。実が大きくなってくると花びらが傷んではらりと落ちた。日に日に姿を変えていく様子はとても不思議で感動的だった。

(二〇一一年六月某日 貴重な晴れ間を逃さない)

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キオスクの 夕刊 見出しの 世の不出来

節電や いっそ みんなで 夏休み!

(葉月のごあいさつ)
扇風機を買いに行った。節電の気運か、品薄。なんとか買って持ち帰り「真央(まお)」と名付けた。理由は「回る」から。入手できなかったが一番の売れ筋は計画停電に備えた充電式扇風機とのこと。皆の工夫と努力が実り、真央(まお)に無事ひと夏働いてもらえるよう祈っている。

(二〇一一年七月某日 扇風機の風でビールより麦茶)

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酒飲まず 暑さ寒さの 面白さ

乳飲み子に 大人 勝てない にらめっこ

(長月のごあいさつ)
酒を飲んでいた最後の夏、田舎の花火大会に出かけた。海辺でゆったりと観られるのが楽しみで、缶ビールを買い込んで浜に座った。やがて花火が夜空を飾りはじめた。が、美しさも楽しさも感じない。ビールの酔いは回らず、気分はぼんやりと沈んだままだった。「私はおかしいのかもしれない。」あの時、夜空にきらめく花火から大切な気づきを与えてもらった。

(二〇一一年八月某日 もう浴衣を着る覇気がなくて残念)

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いろいろな 名前で 呼ばれて 野良の猫

償いも 済まず  十年一昔 じゅうねんひとむかし

(神無月のごあいさつ)
最後の酒を飲んでから十年が経った。断酒会に入会してから毎年表彰状をいただいているが、自分で断酒記念日に何かしたことはない。次の日からまた一日断酒が続くだけだから。十年前も昨日も明日も、十年後も「今日一日」に含まれている。今日一日をただ生きたい。

(二〇一一年九月某日 「今のところ」最後の酒、ですね)

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キッチンタイマー 「はい、はい、はい」と 言っても 止まらず

酒の海 打ち上げられし浜辺 例会場

(霜月のごあいさつ)
先日調布市内で甲州街道を歩いていたら「この道をずっと行けば甲府へ着くのか」とふと思った。千葉県某所の親の家は国道六号沿いにあり、上りは日本橋、下りは仙台へとつながっている。厚木市や御殿場市で「246」の標識を見たりすると「青山や表参道を通っている246?」と不思議な気がする。道はおもしろい。人の一生は道に例えると起点が誕生、終点は死であると思うが一瞬先のルートは誰も知ることができない。恐ろしく、またおもしろい。

(二〇一一年十月某日 さあ次は 何が出てくる 断酒道)

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火と刃物 魚に動物 料理 ほんとに サバイバル

「飲みたいなあ」と 独り言して ぎょっとする

(師走のごあいさつ)
母や友人のブログには自ら撮った花や木、鳥などの写真がよく載る。被写体候補を見つけるやいなや「ブログに載せよう!」とデジカメを手にする様子が思い浮かび、楽しい。それにしても花や木、鳥達の姿のなんと多様なことか。外観の多様性において人間はとても敵わない。せいぜい肌と髪と目の色の違いくらいだから。

(二〇一一年十一月某日 でも内面の多様性はあるかも)

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