酔いざめ川柳 2010年

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ほうぼうで 消毒液の 酒くささ

飲まなけりゃ 飲みたくならない 九度目の初春

(正月のごあいさつ)
去年今年 こぞことし 病気、失望、悲しみ、さまざまあれど、毎日生きるということは、なんと面白いことだろう。ときどき「もし親がこの世に私を産んでくれていなかったら」と考えて、ひとり身もだえして残念がったりしている。変か?  今年も一年、ただただ命があって生きていられればと願う。できれば飲まずに。
(二〇一〇年 行く年来る年 除夜の鐘の数だけ煩悩が・・・)

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あなたの前では飲めませんと 言われて深き友

良い酒の 思い出語ると すぐに尽き

(如月のごあいさつ)
今月で「酔いざめ川柳」も八周年。きっかけは一枚の年賀状だった。断酒会に入会して初めての正月のこと、会の会長あての年賀状にふと思いついて二、三句並べてみた。「君は川柳の心得があるのか」と大真面目な顔で私に聞いた当時の会長は昨年、人間界を卒業された。心得なんかなにもないまま、読んでくださる方々の力で今まで続いている。
(二〇一〇年 一月某日 人は思い出の中に生きる)

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知らぬ間に 母 ブロガーになりにけり

ワンカップ 味 二割り増しに見え あずさ三十一号

(弥生のごあいさつ)
所用で松本に滞在中、松本城を訪ねた。お堀をたたえる水が美しい。北アルプスを借景に五百年もの間、風雪に耐えて立っていたかと思うと感動。自然の造形も美しいけれども、人間が作りだしたものもまた美しい。
(二〇一〇年 二月某日 雪の常念岳を遠く眺めながら)

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三月に なると 手帳が 雑になり

「あと五分」の 朝の楽しみ 薄れて 春来たり

(卯月のごあいさつ)
世事に疎い私にも、バンクーバーオリンピックでの各国の選手達の活躍が伝わってきた。昔なら、一事に秀でた彼、彼女たちが「うらやましいなあ」としか思わなかっただろう。けれども今回思ったのは、彼、彼女たちが日常生活にもどってから「楽しく生きてほしいなあ」ということだった。過程を楽しみながら生きることが、結果よりも大切だと実感するようになったからだ。いや、選手たちがみな年下になったせいからか。
(二〇一〇年 三月某日 花粉で女が下がる)

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桜桜(さくらさくら)   時間 とき を濃くして 人酔わせ

今日よりも 先の目標 持たず生き

(皐月のごあいさつ)
桜の花には「生」を濃縮する力があるようだ。「生」には終わりがあり、その後に「死」が続くことを意識させる。この短い生死のドラマに毎年惑わされる。花の美しさの下に死の姿を幻想し、それを恐れて人々は集まって酒を飲むのか。
(二〇一〇年四月某日 お堀の水面に届きそうな桜の花を見ながら)

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薫風に 吹かれて気分は トムコリンズ

葉桜が「せいせいしたよ」と 独り言

(水無月のごあいさつ)
なんと私も結婚して人妻となった。我ながら驚いている。断酒会に入会して間もない頃、ある会員の奥様から「いいのよ、独身のままでも。結婚が必ず幸せにつながるとは限らないしね」と言われた。断酒会員の奥様の言葉だけに説得力があった。左様(さよう)。それにしても結婚して幸せになる条件は、まず自分自身が幸せであることではないだろうか。さて、どうなることやら。
(二〇一〇年五月某日 会では旧姓のまま名乗りたいと思います)

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袖なしも ショートパンツも ミニスカもない 衣替え

麻酔醒(さ)め あら懐かしや 二日酔い

(文月のごあいさつ)
虫垂切除の手術を受けた。初体験に我がことながら興味津々(しんしん)。でも術後は二日酔いによく似た症状と痛みで参った。見舞客には後から「痛そうだったねえ」と言われたが、私としては大いに愛想よくふるまっていたつもりだった。多分、飲んでいた頃もそうだったのだろう。自分ではいつも元気で楽しげにふるまっていたつもりだった。だが周りからはそうは見られていなかったに違いない。

(二〇一〇年六月某日 「こう見られたい」と思ってもままならず)

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大根と 指 一緒にすりおろして いわし焦(こ)げ

せめてもと 汗かくビールの絵の 団扇(うちわ)

(葉月のごあいさつ)
結婚したけれども料理が問題だ。毎日インターネットでレシピを選び、首っ引きで挑戦している。私の料理はレシピをプリンタで印刷することからはじまる。便利だが、本当なら母親をはじめとする女性の先達に教えを乞うのが人の道ではないかという気がする。人から人へ知恵や技術が伝わる時、それだけでなく何か大切なものが一緒に伝わるのではないか。例会のおかげか、そんなことを思う。
(二〇一〇年七月某日 湯むき、板ずりおぼえたぞ)

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言ったって しょうがないけど 「暑いですね」

日光と 空気 たくさんもらえて 失業中

(長月のごあいさつ)
先月から会の事務局の手伝いをさせていただいている。帳簿をつけたり、例会に出席できなかった方へ「房総」を発送したりしていると、会員の皆様の断酒が続くこと、今苦しんでいる同じ病気の方々が会につながってくれることをごく自然に祈っていることに気づく。それと同時に、なぜか私自身の精神がすっきりと穏やかになっていることに驚かされる。私ができるのはごくささやかなことであるが、よい機会をいただいたと思う。
(二〇一〇年八月某日 煩悩も ぶっとぶ暑さに 身を任せ)

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酒魔 飼って 九年 馴(な)らして 共に生き

今年ばかりは 誰も惜しまぬ 夏が行く

(神無月のごあいさつ)
今年は猛暑で、ミニスカートやショートパンツで歩く若い女性が目につき、うらやましかった。「涼しそう」という理由もあるが私も四十路を過ぎ、ひざから上はそうそう出せなくなったのである。ああ、失敗した。パンツの見えそうなミニスカートをはいて遊び歩いておけばよかった。恋をたくさんしておけばよかった。酒なんか飲んでないで。

(二〇一〇年九月某日 私はジュリアナ世代です)

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「食べ放題」 うれしくなくなって 四十路の日暮れ

祝いの 花 活けて 季節外れの ビアジョッキ

(霜月のごあいさつ)
先月、九段の表彰状をいただいた。「あれから九年か」と感慨深かったが、その前の十五年間は延々と酒を飲んでいたことに思い至る。十五年といえばオギャアと生まれた赤ん坊が義務教育を終える期間だ。ずいぶん長い時間を無駄にした。残された人生は酒をのまずに正気で過ごしたい。

(二〇一〇年十月某日 晴れた秋の一日を愛(お)しむ)

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今日 冬至(とうじ)   夏至(げし)にも いたはず 例会場

逝くならば こんな小春日和の 朝十時

(師走のごあいさつ)
今年始めた習慣。お顔のマッサージ、ひざとくるぶしの手入れ、自分でするヘアマニキュア、デンタルフロスを使った歯の手入れ。いずれも断酒会に入会したばかりの頃は考えもしなかったことだ。寄る年波も感じるが、自分に対する愛も感じて悪くない。
(二〇一〇年十一月某日 来年もいい女をめざしますわよ!)

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