酔いざめ川柳 2008年

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飲みませんようにと祈らなくなり 初詣(はつもうで)

なぜ三度 食わねばならぬと 無精者

(正月のごあいさつ)
先日、初めてプリクラ(商標名:プリント倶楽部)体験をした。今さらとはいえ、思いのほか面白かった。よくできた遊びだ。酒を飲まなくなってある時私は、なるべくミーハーになろうと決めた。流行モノをむやみにバカにせず、芸能人でも身の回りでも見目良き男性がいたら「きゃあ、カッコイイ」といってみる。いつのまにか意識しなくてもミーハーな中年になって、毎日楽しい。今年も楽しい一年にする。それにしてもどこに貼ろうか、プリクラ。
(二〇〇七年十二月某日 繁華街よりビジネス街の 電光飾 (クリスマス・イルミネーション) が好き)

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なによりも まずいことなら 先送り

枯葉舞い 街宣車(カー)の野暮なこと

(如月のごあいさつ)
酔いざめ川柳も今月で丸六年。お読みくださる方々のおかげでこれまで続けられた。深く感謝している。川柳的生き方というのがあるように思えてならない。例えば肩の力をぬいて「ひょいひょい」と生きようとすること、例えば煮詰まらないように自分自身から「さらっと」離れて一歩引いた目線を持とうとすること。ときにネタ切れでうなったりするけれども、川柳をひねるという行為は私の一日断酒に大いに役立っている。どなたかこのコーナー、引き継ぎませんか?
(二〇〇八年一月某日 お昼休みに日比谷公園の銀杏の木を愛でる)

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「断酒六年」言って 感心されもせず

飴 ぽんと 口にいれたら 指名され

(弥生のごあいさつ)
とある占いによると私の場合、今年が「大殺界」という悪い運気の年にあたるらしい。大いに身を慎み、酒魔にとりつかれたりしないよう、気をつけたいものだ。しかし。思えば酒を飲んでいた十五年の間には「今年は大吉」とか「これから三年間はラッキーな星回り」といった年や時期があったはずなのである。すべてをダメにする酒の力、おそるべし。酒を飲んでいるアルコール依存症者は、幸運も不運もなく、とにかく辛くてめちゃくちゃである。
(二〇〇八年二月某日 今日も一日断酒で大吉!)

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サラダにでもするかと思って 春きたり

仲間集い 深き眠りの あたたかさ

(卯月のごあいさつ)
わかしお断酒会にきている。
三月、南房総の春はたけなわ。紺碧の荒潮が踊る。体験談にひかれ、八百万(やおよろず)の神々も降臨してきた。仰げ、青空。
天から与えられた病気は、仲間とともに天に返そう。
(二〇〇八年三月二日 快晴。千葉県鴨川青年の家にて)

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出せもせず 抜けられもせず 断酒会

ビンボーで 暇がないのが 役に立ち

(皐月のごあいさつ)
先日、会の先輩からいただいた写真のわが姿をみてびっくり。
入会した頃と比べると肥えてるわ老けてるわ。諸先輩方はみな親切で、いろいろなぐさめてくださったがどうであろう。しかし会に入って一日断酒を続けていかなければ、どうなっていたか。老けたと嘆く前に死んでいた可能性が高い。
いや、アル中が酒を飲むと「こんななら死んだほうがマシ」ということがこれでもかこれでもかと起きる。肥えようが老けようが飲まない今日一日は、すばらしい。
(二〇〇八年四月某日 酒飲まず 桜の下にて さあ 生きん)

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給料日 前に いろいろ 切れてくる

自販機で サイダー 選んで 夏きたり

(水無月のごあいさつ)
窓を開け放すにはいい季節だ。寒くないし、虫も入ってこない。私は自然の事象のなかでは、とりわけ風が好き。風通しの悪い場所は嫌いだ。風が頬をなぜてくれるとゾクリ、と生きている実感がわいてくる。この季節の風は、なんといっても夜がいい。夜、窓を開ける。なにか心の奥底がゆさぶられる。そしてこう思う。
「世界はなんと美しく、すばらしいのだろう」と。
(二〇〇八年五月某日 晩秋の夜の気が動く)

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もしかして ネタが切れたら 回復か

楽な服 体が服に合ってくる

(文月のごあいさつ)
今日は雨上がりの快晴でさわやかな気候だった。年間を通してこれほど気持ちのいい天気に恵まれる日は幾日もないだろう。雨で塵が落ちた休日の街を歩くとふと非現実的な気分になる。 「ここは天国ではないか?」多分、天国も地獄もこの世に在る。 人の心の中にもあるし、外にもある。
(二〇〇八年六月某日 常春、常夏、お断り。移りゆく四季がいい)

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宴会や 適正飲酒の 不可解さ

かき氷 食べても 減らず 不惑かな

(葉月のごあいさつ)
福岡は博多に滞在している。仕事の都合でしばらく東京と福岡を行き来することになりそうだ。思いもよらない機会であり、毎日愉快に過ごしている。すべては飲まない生活を続けさせていただいているおかげである。天気がずっと悪いのと忙しいのとで、仕事場と仮住まいの周りしか歩いていない。それでも分 かる。博多はよいところ。食べ物はおいしく、人は親切。なにより、酒もうまそうだ。
(二〇〇八年七月某日 さあ、博多祇園山笠を見に行こう)

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シャンパンの 色など 愛でて 余裕かまし

美容院 大きな鏡で 逃げられず

(長月のごあいさつ)
相変わらず福岡に滞在中。飛行機は便利だ。しかしつまらない。東京と福岡は千百キロあるというのに、ひとっ飛び一時間半で到着だ。電柱の住所表示板に「博多区○○」とあるから博多なんだろうな、と思う。それに職場のドアに「九州営業所」とあるから、きっと九州にいるんだろうな、と思う。でも実は埼玉あたりにいるんじゃないかと疑ってみたりする。 暑いせいからか。
(二〇〇八年八月某日 博多の夕立に打たれる)

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人間に もどろうとして 早や 七年

格安で 雲の絨毯 踏み放題

(神無月のごあいさつ)
晩夏の福岡城址、三之丸の石垣に寄掛かりつつ。
生きとし生けるものの静かな気配が強烈だ。
照りつける日差しも、地の草の黄緑も、そよ吹く風の香りも、セミの声も。
生まれて生きて四十年。酒飲んで十五年。酒断って七年。世界は私を受け入れ、生かしめる。この事実に絶句する。
(二〇〇八年九月某日 ご当地ソング 酒は呑め呑め 呑むならば♪)

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アル中の 禁煙 周りは 心配し

残り物 腐らなくなり 秋 到来

(霜月のごあいさつ)
福岡への出張が終わり、東京にもどってきた。すっかり気に入った福岡だったけれど、やはり東京もよい。思えば酒を飲んでいたころは、国内外のどこをほっつき歩いても本当の楽しさが分からなかった。今はどこをうろついても楽しい。窓を開ければおいしい秋の空気。じっとしているのも、また良し。
(二〇〇八年十月某日 もちろん千葉も大好きだ)

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ウォッシュレット ‘強’にしたのは 誰だ誰

投票日 どこかにないか 「断酒党」

(師走のごあいさつ)
日々、生きてうれしいことは多々ある。その内のひとつが「川柳のネタを思いついたとき」だ。思いついたらにんまりしている場合ではない。レシートの裏、飴の包み紙、なにもなければちり紙に書きなぐる。うれしいわりには覚えていられないのが不思議だ。コツは、むきにならないことと、己を小さくすることかな、と思う。そのどちらも一日断酒の役に立つ。
(二〇〇八年十一月某日 あと、出来がよくなくても気にしないこと!)

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