酔いざめ川柳 2006年

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同僚も 上司も 年が下になり

幹事だけ やって当日 カゼで逃げ

コーヒーが やたらと 美味 うま し 冬 更 ふ ける

(正月のごあいさつ)
新年の抱負――「一日断酒」。
昨年は、いい年だった。今年もすばらしい年になるはず。どんなにいいことがあっても「飲まない」。どんなに悪いことが起きても「飲まない」。
回復への道はいつだって崖っぷちの細い道。うっかり踏み外すと、すぐ転落。けれど、命ある限り続く美しい道だ。晴れた日も、雨の日も、景色は最高。
さあ、行こう!
(二〇〇五年十二月某日 私のライフワークは「アルコール中毒からの回復」)

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大掃除 誉められも叱られもせず 独り者

いまはただ 賀状ばかりの 仲になり

(如月のごあいさつ)
最近、酒を飲む夢をみなくなった。飲む夢をみるとしんどい。が、みなくなってみると、何だか気になる。すこしずつ酒が遠いものになってきているのか。アル中は忘却の病気だ。いつも「思い出させてもらう」ことがないと忘れてしまう。自分で「思いだす」だけでは不十分だ。いつか思い出さなくなる。おそらくそういうものなのだ。
(二〇〇六年一月某日 祝! 「酔いざめ川柳」四周年)

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失敗じゃ ないが まったく 気が利かず

今日もまた アル中 込みで 生きており

(弥生のごあいさつ)
そろそろ私の好きな梅の花が咲きはじめる。冬の青い空に小さな花がよく映える。かすかに甘く清涼な香りも好い。平安時代の女流歌人である式子内親王はこのような歌を詠んだ。

ながめつるけふは昔になりぬとも軒端の梅よ我を忘るな

八百年の時を隔てても、一度読むだけで思わずうなずいてしまう。言葉や文字の力に恐れ入る。
(二〇〇七年二月某日 ・・・千年残れ、酔いざめ川柳)

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世間なら シャレにならない 話なり

履歴書の 写真 焼き増し焼き増して

(卯月のごあいさつ)
松戸といえば、「矢切の渡し」、とくれば、伊藤左千夫の「野菊の墓」。名せりふ「民さんは野菊のような人だ」を思い出し、ふと考えた。
「自分が、どの花に 例 たと え られたら、うれしいか 」
いや、自分を花に 例 たと えてみようというのではない。 傍点 ぼうてん どおり、「たら、うれしいか」だ。さんざ、迷った結果、菜の花なんかよいのではないかと思った。派手ではないが、色も姿もいい。春浅いうちから咲く。食べられるし、油もとれる。実用的で美しいのは、よいことだ。おお、しかも千葉県の花。
しょうのないことを考えてみるのも、また楽しい。男性は、木や動物、乗り物や機械なんかでやってみたらいかがだろうか。
うーん、春らしくてのんきだねえ。
(二〇〇六年三月某日 春一番が、ひゅーうっと吹いたよ)

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花柄を 着ても マスクで 怖い顔

ガス 電気 料金下がって 春を知り

(皐月のごあいさつ)
断酒後、初めて酒の席に出た。これまで、席にでることすら、かたくなに拒んできた。けれども、本格的な社会復帰にのりだし、断るのが不自然、という状況にぶつかった。悲壮な覚悟をもって出席したのに、拍子ぬけ。 最初の一杯を丁重に断ったら、誰からもすすめられなかった。飲みたいとも思わなかった。注文係りをひきうけたり、焼きそばをとりわけたりして、昔と大違い。楽しかった。よかった。
(二〇〇六年四月某日 桜の木の枝が花で重そう)

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近すぎる 鏡は 薄目で通り過ぎ

因果なり 酒屋の猫にひとめぼれ

(水無月のごあいさつ)
六月が誕生日で三十八歳になる。「そんな歳・・・中年だねえ立派に」って、ヒトゴトではないのだ。自分のことなのだ。近頃では、ふいに鏡にでっくわすと驚く。「うわ、老けた」と。おもしろいもので、あらかじめ鏡があるとわかっていて見るときは、あまり驚かない。それなりに覚悟をしてから見るせいか。  まあ、仕方ない。十五年間、酒ばかり飲んでいた自分をとりあえず、置いておいてくれる世の中に感謝、である。
(二〇〇六年五月某日 素足にサンダルで出かけた日)

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あんみつを 食べて 誰にも口説かれず

夏が来て ビールの 黄金 こがね の 麗しき

(文月のごあいさつ)
仕事がやみくもに忙しくなってきた。残業を終えて立ち寄ったラーメン屋で、となりの客が注文したビールが金色に光り輝いてみえたり、洒落た酒屋のショーウィンドーに飾られたボトルが、琥珀色に見えたりする。疲れすぎだ。そのうちジンやウォッカがクリスタルにみえたら、もう、だめかもしれない。疲労は「一日断酒」という命綱を細くする。たった一日、定刻できりあげて例会に行く。たった一日、休日をとる。これで、命綱は太くなる。命あっての物種。いいわけは命取り。
(二〇〇六年六月某日 スタミナドリンクもやめてます)

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「まだ生きて いたのか」 喜び 言わでおき

汗だくで 俳人 立秋ひねるかな

(葉月のごあいさつ)
数日前、資源ごみ回収の日に、ビンを出した。資源ごみをだしたのは、実に一年ぶり。酒から離れ、家で飲むのは、自分で淹れる温かいコーヒーやハーブティーが中心になった。飲んでいた頃は、ピンと缶が、うなるようにたまって頭が痛かった。わずか一週間の間にこれだけ酒瓶が空くのか、毎度、うんざりしている間はよかったが、次第に、空恐ろしい、絶望的な気分になっていった。
飲まなくなって、いろいろなことから開放されたが、酒瓶(缶も)の始末もそのひとつだ。本当に、よかった。
(二〇〇六年七月某日 冷たいペリエがおいしいね!)

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口説かれて ただ丸まっている 去勢猫

誰からも  年齢 とし 訊(き)かれなくなって たたずむ 水着売り場

(長月のごあいさつ)
仕事がひとやま越えて、普通の生活にもどった。気が抜けたせいか、なんとなく物足りなく、つまらなく感じる。そういえば昔から勢いにまかせてわき目もふらずに何かに取りくむことが嫌いではなかった。逃避の一種であったと思う。だから、がんばったところで、成果が自分の手に残らなかった。今は、そのように理解できる。やまのない一日こそ、貴重なのだろう。「生きる」修業が足りないなあ。
(二〇〇六年八月某日 今日はまだ、うちわが役に立つ暑さ)

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歳時記を めくってもムダ 川柳は

冷や酒を 夢に見させる よい月夜

(神無月のごあいさつ)
今月で、アパートの部屋の賃貸契約が更新された。一人住まいの部屋を借りたのは、五回目だが、契約を更新したのは初めてである。酒を飲んでいた頃は、生活が落ち着かず、ひとつ処に二年も居つくことはなかった。大正生まれの大家さんは「信用してるから更新料はいらないよ」といってくれた。これも、飲まない生活の中で得られたささやかな成功体験だ。ありがたい。

麦酒 ビール ない 五度目の夏を  愛 いつく しみ
(二〇〇六年九月某日 目のつぶれた畳の上で、秋風に吹かれる)

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米5キロ 持って あきらめ ダイエット

友逝って 珈琲一杯 窓に供える

(霜月のごあいさつ)
友人のパートナーが亡くなった。享年四十三歳、ガンだった。亡くなる一週間前、レモンと白檀のアロマオイルを使って簡単なマッサージをさせてもらうことができた。
人生の卒業おめでとう。彼の魂は本来あるべき場所に帰っていく。けれどもしばらくは愛する人や別れを惜しむ友のそばに居ておくれ。
(二〇〇六年十月某日  金木犀 (きんもくせい) の香りの次は風に揺れる 秋桜 こすもす )

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可愛 (かわい)さも サイズ L (エル) だと ちょっと落ち

そういえば 吐かなくなったと ほくそえみ

(師走のごあいさつ)
所用で神保町に足を運んだ。古書店街も老舗の大型書店も心はずむ場所だ。とはいえ、毎度ものすごい量の書籍に驚かされる。かつてプロの作家を夢見た私であるが、今は一読者で充分だと思う。作品を書く才能よりも、それを享受できる立場を与えられたほうが楽で楽しいと思うようになったからだ。
(二〇〇六年十一月某日 さびしさも 中ぐらいなり おらが秋)

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