お酒を飲まずに生きるには

酔いざめ川柳 2005年

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酔っ払い 見るたび わが身が 縮こまり

ひとり身の 雑炊まずくて ふてくされ

(正月のごあいさつ)
思いがけず、就いたばかりの仕事がクビになった。先方から「契約更新なし」のお達しが。理由は職務チームの女ボスから嫌われたから、ではないかと思う。
アル中として、常にがけっぷちを歩くような社会人生活をしてきた。あまたの就職活動のなかで、不採用になったことはいくらでもある。いたたまれなくて自分から職を捨てたこともたびたび。が、辞めろといわれたのは初めてだ。
でも、これでよかった。今回の仕事は、本当につまらなくて、内心辞めたかったのである。飲んでいた頃なら、酒でまぎらわせつつ、周囲から嫌われないように必死になっていただろう。今は、酒がないだけに、自分も人も、ごまかすことができなくなった。
(二〇〇四年十二月某日 経験はタカラ、とはいえ財布はカラ)

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納会じゃ 人おしのけて お茶 ひっつかみ

飲まず生き  去年 こぞ のカレンダー  愛 いとお しく

木枯らしの 吹きて 例会 暖かき

(如月のごあいさつ)
驚いた。このコーナーも、丸三年。「石の上にも三年」の、三年である。思いがけず長い間、書かせていただいた。じんわりと感動している。
最初の頃は、やや気負っていた。こう書けば感心されるかな、いや、このネタでうならせよう、などと。ところがある日、突然、こう思った。「これは私がほめられたり、感心されたりするために書くのではない。読んだ方が少しでも楽しい気持ちになるよう、何かの力が、たまたま私を書き手にしているだけだ」
何かの力とは、他でもない、読んでくださる方々の心の力であると思う。
(二〇〇五年一月某日 ライフ・イズ・ワンダフル!)

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アル中の 集いて 紫煙が 雲になり

大食堂 ビンが立たずに 摩訶不思議

体験談 檜舞台で 美景は 書き割り

(弥生のごあいさつ)
「わかしお断酒研修会」にやってきた。和室の会場に腹ばいになってこれを書いている。やがて仲間が集まってくるはず。
ここ、鴨川はよいところ。空は青くて広い。潮風は暖か。目の前は安房(あわ)松島。
研修会は体験談で熱い。場の磁力が強くて体温が上がる。悲しみが、苦しみが、後悔が、怒りが、やるせなさが沸きだす。その中から「命を支える何かの力」が湯気のように立ち昇っているのが見えるのは私だけか。
(二〇〇五年二月五日 例会場には 八百万 やおよろず の神が降臨する)

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興ざめなパンツを履いて タイツ履き

奥さんと 呼ばれ 買わずに通り過ぎ

贈るにも 酒入り避ける バレンタイン

(卯月のごあいさつ)
道ならぬ恋におちてしまった。電車の中でのこと。黒いつぶらな瞳、思慮深げで優しい表情。すらりとした手足。ほんの数秒間、彼と見つめあった私のハートはストップモーション(そういう歌が昔、はやった)。けれども彼は盲導犬。お仕えする主人を守るべく、シルバーシートの下に行儀よく座った。
彼らは、外出中、排泄もせず、ものも食べないそうである。そして、驚くべき集中力で主人を危険から守る。私よりよほど利口ではないか。
偶然、同じ駅で電車を降りた。思わず後ろからついていってしまったが、短い間、恋に落ちたその方は・・・彼ではなくて彼女だった。
(二〇〇五年三月某日 春は名のみの風の寒さや♪「早春賦」より)

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「飲みました」と 言えばよかった 今日の例会
シャレにならない 由々しきことかな 由々しきことかな

料理より 家具の組み立て 上手くなり
たくましきこと たくましきこと

我ながら カウンター席 よく似合い
むかしは酒で 今は定食

(皐月のごあいさつ)
当世、若者の間で流行(はやり)しもの言い。
其の壱 「了解です!」
「わかりました」の意。携帯(電話)メールから発生し、話ことばに転じたものと思われる。威勢よく聞こえるけど、日本語としてはちょっと変。

其の弐 「本当(ホント)ですかあ?」
本来なら「そうでしたか」や「さようでございましたか」などと言うべきところ。語尾を上げるのがポイント。機嫌の悪いときは「ウソだっていいたいわけ?」とツッコミたくなる。
これらのもの言いは、オフィシャルな場面で堂々と使われております。でっくわしてもひるまないこと!
(二〇〇五年エイプリルフール 「四月馬鹿」は立派な季語)

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「明日から家族サービスだ」と 上司が嫌な顔

朝寝 朝酒 朝湯 安い娯楽なり

(水無月のごあいさつ)
ゴールデンウィークに突入。日銭を稼いでしのぐ身の上だと、休めるのはうれしいものの、仕事にあぶれるので、痛(いた)し痒(かゆ)しといったところか。遊びにでかけるとフトコロがいたむので、小原庄助さんをみならいたいところ。けれども、彼が大好きだったといわれる「朝寝 朝酒 朝湯」のセットのうち一つだけ許されないものがあるのが致命的である。うーん、それはすでに一生分やっちまったからだなあ。
(二〇〇五年五月某日 つぶすほどの身上(しんしょう)は、ありませんが)

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百円で 今日も命が 延びにけり

一生分 飲みも飲んだり 三人分

(文月のごあいさつ)
風薫る五月も終わった。今年は新入社員、新入部員の「イッキ飲み死亡」の犠牲者がでなかったようで、ほっとしている。人生の門出で、そんな命の落とし方はひどすぎるだろう。先の人生でまだまだおいしく飲めただろうに。
・・・などと思うのはアル中の発想か。酒はちっとも悪くない。親睦を深めるために人が集う時、飲めない人も楽しめるような気配りと工夫があるとよい。そういった集いが増える世の中になれば、他のいろいろな社会問題も減ってくるのではないかと思う。
(二〇〇五年六月某日 ああ、いい風が吹いている)

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大負けに 負けに負け負け 今日も生き抜く

酒の味 想いて 修羅場の恋も思い出し

(葉月のごあいさつ)
酒は、杖だったような気がする。こころが片足のままで、けんけんしながら前に進もうとした。足が疲れて、とても痛んだ。だから杖が必要だった。杖がなければ歩くことを放棄していたかも。飲まないで生きることは、こころの両足を育てていくことかもしれない。転びつつ、びっこをひきつつ、自分のために歩く足を育てたい。アスファルトジャングルだって、白い砂浜だって歩いてみたいではないか。
(二〇〇五年七月某日 うんと高いハイヒールだって履いてみたいし)

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休載

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異国にて 話し相手は 犬と猫

異郷でも 同じ悩みに 胸焦(こ)がし

(神無月のごあいさつ)
アメリカ合衆国のニューヨーク市に滞在して 一月半 ひとつきはん になる。感想は、と問われればひとこと「とてもおもしろい」。惜しむらくは英語が達者でないこと。句の通り、犬猫がよき友となっている。彼(彼女)らの 形 なり は日本で見るのと変わらない。時差が十三時間あることを思うと何となく不思議だ。公園のハト、スズメもまったく同じで大い心なぐさめられる。人間の方は白黒茶黄の各色人種が入り混じっておりたいそう興味深い。人種が違っても「やはり同じ人間」と感じることもあり「ずいぶん違う」と感じることもある。うーん、おもしろい。

(二〇〇五年九月某日 ニューヨークは夕暮れ時が一番きれい)

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お育ちの 悪くて 社員食堂 チョー満足

OLに 化けて楽しき 昼休み

栗 くり に 梨 なし   芋 いも に  秋刀魚 さんま の 秋きたり

(霜月のごあいさつ)
旅を終え、日雇い稼業にまいもどった。宮仕えが性に合わないという、あまり認めたくない事実をやっと受けいれた今日この頃。
けれどもいっときの生業(なりわい)と思えば、「お勤め」だって悪くない。とりわけ終業ベル。外にでたときの解放感はたまらない。昼休みは、複雑だ。あと半日あるし。そういえば、中原中也の詩の一節にこういうのがあった。
「ぞろぞろぞろぞろ降ってくる ああ降ってくる降ってくる 月給取りの午後休み」さすが、詩人。気分がでている。
(二〇〇五年十月某日 肥ゆるのは馬だけではないねえ)

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通販の カタログ見ると 眠気覚め

酒を飲む 才能もたずに 産まれ落ち

(師走のごあいさつ)
カゼをひいた。体が資本、というか資本は体だけだというのに、ぬかった。けれども、「風邪は体の治癒行為」というとらえ方がある。風邪をきちんとひける体こそ、健康を維持できるいい体なのだそうだ。そういえば飲んでいた頃は風邪ひいてんだか、なんだかわからなかった。うどんでもすすって早く寝る、という知恵がついたのは格段の進歩だ。
私は、二日酔いと離脱症状よりつらい病気を知らない。恵まれている。
(二〇〇五年十一月某日 今、師走と書いて驚きました)

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