お酒を飲まずに生きるには

酔いざめ川柳 2004年

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隣席の ワインの残り 気が知れず

百年の恋を 毎度 覚ました わが酒歴

(正月のごあいさつ)
飲まなくなってから、暑さや寒さに敏感になった。季節の移り変わりも感じるようになった。五感が鋭くなった。イベントや行事が楽しみになった。
今度の正月も楽しみだ。なんという懐かしい感情だろう。小学生の頃のようだ。あの頃、新しい年がくるのは一大事だった。あのときめきが復活している。
どうか、今年も一日断酒が三百六十五日、続きますように。
(二〇〇三年十二月某日 おっ、クリスマスのイルミネーション見―っけ。)

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酒断って 年賀状の数 増え続け

棚吊って ますます縁遠くなる 年女

(如月のごあいさつ)
このコーナーも今月で、なんと、まる二年。掲載当初は、「おもしろいの考えなきゃ。」なんて力んでいた。が、今は「ま、締め切りまでにはなんとかなるでしょう」。
「なんとかなる」
この感覚が、私が飲まずに生きるためのコツになっているような気がする。今日一日、できるだけのことをできるだけの力でやる。そしてあとのことは明日の風にまかせる。足は地べたを踏みしめ、顔を上げて空を見上げる。
でもときどき、足が宙に浮いたり、地団太を踏んだりするんだよなあ。
(二〇〇三年一月某日 年女、どう考えても年女)

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節分の 豆もう年の数 食べられず

あつあつの おでんも 今やおかずなり

カクテルの うんちくたれて はっとする

(弥生のごあいさつ)
「猫の恋」は二月の季語。であるが、人間様には「バレンタインデー」というものがある。今年あたりは恋の種まきをしたいもの。しかし酒を飲まなくなった今、どのようにして獲物にとりついたらよいのか。その道の達人といわれる大先輩におうかがいをたてた。
「お食事しましょう、か、お茶を飲みましょう、と言うのよ。世の中、飲まない男だってたくさんいるんだから」
おお、そうか。
(二〇〇四年二月某日 勝負下着を用意しとこうっと)

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立春は むやみに冷え込む日と決まり

受け月に あふれんばかりに注ぐ酒

(卯月のごあいさつ)
派遣労働者として日銭を稼ぐ日々を送っている。派遣先が外資系の会社のせいか、万事、ドライだ。マネージャの一存であっさり契約が打ち切りになる。以前の私であれば、このような環境では三日ともたなかったであろう。しかし、今は、「のんこのしゃあ」だ。余計な執着がなくなった。本も服も靴も職もばんばん捨てる。
なにもかも飲まない一日ほど、大切ではないのだ。
(二〇〇四年三月某日 目の前にうれし哀しの桜の季節)

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猫の世も またたび中毒 あるかしら

はしご はしご はしごで 天国への階段 登りかけ

(皐月のごあいさつ)
仕事で大阪へ行ってきた。食事をする余裕すらなかったが、キタやミナミというネオン街に思いをはせた。うわさに聞く「じゃんじゃん横丁」は、どんな風かしら。
そういえば、新宿二丁目も、ゴールデン街も、ススキノにも、飲める間に行っておけばよかったなあ。
(二〇〇四年四月某日 煩悩は桜のようには散らないね)

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夏近し 陽のあるうちに 例会場

アル中や 渡る世間は 酒ばかり

(水無月のごあいさつ)
アロマテラビーの勉強をしている。「ラベンダーとゼラニウムの組み合わせは最高の香り」とか、「レモングラスの香りでリフレッシュ」とか、やっているのだ。我ながら、驚きである。
少し前まで、毎日酒臭かったりゲロくさかったりした身の上なので、気恥ずかしいが、精油を使った芳香療法はおもしろいし、役に立つ。
人間の五感の中で、嗅覚は本能、情動をつかさどる大脳辺縁系に直接働きかける唯一の、もっとも原始的な感覚であるそうだ。酒の薫香に、ご用心。
(二〇〇四年五月某日 毎日がメモリアルディ 一日断酒)

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下戸と聞き 「つまらないね」と つい答え

菓子もみな 飽きて 恋など したくなり

(文月のごあいさつ)
酒席を断るために、自分がアルコール中毒であることを説明した。毎度のことだが、この病気について一応の理解をしてもらえるまで、かなりの時間がかる。
説明した相手の中に、アル中が主人公の映画「リービング・ラスベガス」を観たという方がいた。「あの映画は感動したけど、あんなにひどくはなかったんでしょう?」
いや、まさにあの通り。酒を止めないアル中はあのように飲み続ける。なにもかも失くしてしまうまで。
(二〇〇四年六月某日 薄着の季節。断酒の上にダイエットとは殺生な)

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酒なくし 三度目の夏 水着買い

酒を飲む 悪夢は ホラー映画よりも効き

(葉月のごあいさつ)
「せき喘息」と診断された。断酒後、大病こそしないものの、心身を含め、いくどか病気をしている。病気は天からの警鐘のようだ。
振り返れば、その時の自分にふさわしくないことをしようとしたり、したくもないことを無理に続けていたりすると、必ず病気で頓挫していた。今回は何だろう?
一日断酒を続けていれば、そのうちきっと答えがでる。
(二〇〇四年七月某日 雨が降るとサンダルが履けない)

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「たーまやー」これが一番 電車の窓から 見る花火

暑さ耐え 夏痩せもせず 損した気

年女 コップの氷を 噛み砕き

(長月のごあいさつ)
ああ、暑い。「三十度だと、涼しいねえ」というのが定番の冗談になってしまった。アスファルトの照り返しは勘弁してほしいが、暑い夏は、なぜか子どもの頃を思いだす。親の田舎で過ごす夏休み。海と裏山の木立が好きだった。帽子なんかかぶらず、日に焼けて真っ黒。お昼にそうめんばかりでうんざり。
この夏は貧乏ひまなしで、休みがとれない。ひとまず、そうめんでも食べますか。
(二〇〇四年八月某日 めちゃくちゃ暑いからノースリーブを着ちゃうぞ)

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小娘の ゆかたの着付けが 気に入らず

伸びをして 手にいっぱいの 陽をもらい

この夏は 飲みも飲んだり 麦茶をば

(神無月のごあいさつ)
訳あって、今、人のからだのしくみや、初歩的な栄養学、健康学などを勉強している。人のからだの精巧さには驚くばかりだ。大宇宙(グランドコスモス)に対し、個体としての人間を小宇宙(ミクロコスモス)ととらえるのは古くからの英知である。そう、人はみな、ひとつの小さな宇宙として存在しているのだ。なんだか、すばらしいではないか。
・・・ということで、健康に気を使うようになった。
無頼をきどった大酒飲み時代が恐ろしくもあり、懐かしくもあり。

(二〇〇四年九月某日 ああ、今日はコーヒーを六杯も飲んでしまった。反省。)

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ヘアカラー 理由は せっぱ詰まっており

「年内に」の 言葉 舞いはじめて 秋 進み

(霜月のごあいさつ)
一人住まいをはじめた。望みどおり、ごちゃごちゃとした下町である。築三十数年の六畳間、陽当たりと風通し良好。大正十三年生まれの大家さんは、すてきなおばあちゃん。屋上にあがって洗濯物を干せば気分爽快。夏には隅田川の花火が見えるらしい。ここから、二LDKの小奇麗なマンションにステップアップを目指すのもよし、この六畳間とともに年老いていくのもまたよし、かな。
(二〇〇四年十月某日 引越しのときくらい男手がほしいねえ)

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宴会を パスして プリン 二つ食い

酒だけでなく無力なり 会議の居眠り

(師走のごあいさつ)
地震は怖かった。松戸駅ビル7階のレストランに居合わせ、気分が悪くなってへたりこんだ。若いウェイトレスさんたちが「水をお持ちしましょうか!?」などと、心配してくれた。小心モノなのである。
新潟の被災者の方々は、筆舌つくしがたくたいへんな思いをされていることだろう。それでも、たくましく生活を、人生を立て直していかれるにちがいない。酒地獄から、とりあえず生還した今、人には「生きる力」というすばらしい力が備わっていると信じているから。他人事とは、とうてい思えない。
(二〇〇四年十一月某日 とはいえ、募金は小銭しか・・・)

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