お酒を飲まずに生きるには

臼杵山(うすきやま)単独行 顛末記 ―― 1999年1月 ――

ヤマで不摂生の邪気をはらう

久しぶりに山に登りたくなった。
山に登りはじめて3年になる。昨シーズンは北アルプスの蝶ヶ岳、北八ヶ岳の茶臼に縞枯、そして初の単独行で高水三山に登った。登山シーズンの終了とともに体を動かさなくなり、年の瀬も押しせまる頃、私の生活は不摂生を極めた。年があけてから、なんとか生活をたてなおすと「山だ、山へ行くのじゃ」という内なる声が聞こえてきた。
しかし今は真冬。とはいえ、
「ダイジョーブ♪ 低いとこなら」
ということで出発だ。

1999年1月16日

奥多摩の戸倉三山縦走をめざす。

5:07
最寄りの駅から電車に乗り込む。駅まで20分ほど歩いたが、寒さはそれほど感じなかった。シャツにトレーナー、フリースジャケット、ゴアテックスのレインウェアを重ね着している。
乗り換えまで40分ほどかかるので、眠ろうとしたが眠れない。
緊張のため??

7:35
武蔵五日市駅に到着。
トイレに寄ってから駅をでる。駅前のロータリーはバスの姿もなくガラーンとしている。
登山姿の人影もない。電車の中でちらほら見かけたのに・・・
いやな予感がした。
時刻表を確認すると案の定、次のバスまで1時間以上待たなければならない。なんと電車の到着後、約5分の乗り継ぎでバスは出発してしまったのだ。ほかの登山客は、それを知っていて早々にバスに乗り込んだのだろう。
ちなみに登山口までバスで15分。

(教訓その1。バスの時刻は調べておくべし。)

戸倉三山とは、臼杵山(うすきやま)842m、市道山(いちみちやま)795m、刈寄山(かりよせやま)の三山を指す。標高はさほど高くはないが縦走すると7時間近くかかる、なかなかのコースだ。入山が遅れるとマズイ。タクシーに乗り込み、10分でバス停「荷田子(にたご)」に到着。

登山開始・・・・・・この山に人類はワタシひとり?

8:30
入山。集落を抜け、山道に入っていく。敷きつめられた枯葉をさくさく踏みしめる。集落が次第に遠ざかる。コースタイムを少し切るペースで臼杵峠着。夏とは違い、汗だくにならなくてすむし枯葉を踏むのもオツなもの。天気もいい。
それなのに、人っ子ひとりいない。シーズン中の山しか知らない私は、週末の奥多摩には必ず登山者がいるものと思い込んでいた。なんだか不安になってくる。
「まさかなあ、この山に人類は私だけなんてことはないだろうなあ」
内心の不安を抑えて、せっせと登り続けると体が登りに慣れてくる。ふだんなら余裕ができて楽しくなる頃だが、今日は楽しさよりも不安が増してくる。相変わらず人気も風もなく、足をとめると深い静けさにつつまれる。ときおり、鳥の鳴き声が響く。
この山道は「グミ尾根」という。登山道が稜線よりやや北側につくられているので、空はパキンと青いのに、薄暗い森の中を歩いているように感じられる。
「こわいよう!」
不安は少しずつ恐怖感に変わってきた。引き返そうかな・・・
地図によれば、まもなく主稜線に出るはずだ。明るくなれば気分も変わるだろう。怖がらないで、なんとか楽しもうと念じつつ登る。
実際に山歩きは快適だった。汗をかいても一枚抜いでしばらくすると乾いてくる。
やがて主稜線に出て、道は明るくなった。

10:15
臼杵山頂着。と思いきや、祠が祀られているこのピークは「臼杵山北峰」。842.1mの三角点があるのはここから5分ほど歩いた「臼杵山南峰」のほうだ。
水筒の水で形ばかり手を清めて祠の前で合掌。
南峰にも行ってみる。
この時点で下山しようと判断した。山頂付近で、縦走を続けるか下山するか、悩みはじめた。体力的には問題ない。が、いかんせん緊張しすぎる。

(教訓その2。単独行なら恐怖感を克服すべし)

霊峰富士の勇姿を拝み、川にはまる

帰りは「元郷」バス停を目指して下る。北峰まで引き返し、ふと左手を見ると霊峰富士山がドドーンと姿をあらわした。真っ白な富士は、ひれ伏した奥多摩、丹沢の山並みを、その優美な裾野のうちにとりこんでいるかのよう。やはり存在感のある山だ。カメラをもっていないのでよく見ておく。これぞ登山の醍醐味というもの!
下りのコースタイムは50分。ザクザクと下る。かなり急な下りが続く。道の状態もあまりよくない。一度は道から谷側に落ちそうになった。落ち葉の下の石を踏んだのだ。踏み固められていない道とはこんなものだろうか。
それにしてもけっこうキツイ下りだ。ひざがけたけた笑う。スピードが落ちる。

11:10
下山。目の前の川を渡れば集落に入れる。
問題は橋だ。竹を5本束ねた橋は、どうもこころもとなく、片足をのせるときしむ。橋の下の流れは、落ちれば胸のあたりまで浸かりそう。全体的に浅瀬なのに橋の下だけ深くなっているのだ。すべり落ちるにしても、橋を折って落ちるにしても、カッコ悪いことこのうえないし、冷水にドボンで心臓麻痺は願い下げだ。とはいえ、浅瀬を渡るのも靴に水が入って冷たそうだ。
「困ったなあ」
とぼやいていても誰も通りかからないから仕方ない。結局、浅いところを選んで川を渡ることにした。スパッツをつけてエイヤッと川に入る。深さは30cmほど。
見た目はゆるやかな流れだが、足にかかる水圧は思ったより強い。靴に水が入ったがたいしたことはない。よかった。コンクリートの階段を登って道に出ようとすると・・・

道に迷い、凍結した滝を鑑賞する

11:40
道に出るかと思いきや、民家の裏庭に侵入していた。アメリカと違って銃で撃たれはしなかったが、犬に吠えられた。申し訳なさそうに頭を下げつつ通らせてもらい、道にでた。30分ほどうろうろしても「元郷」のバス停がない。下山口からすぐのはずなんだけど???
しばらく歩くとバス停があったが名前が違う。ここはどこ?
地図で確認すると「元郷」から約3km離れたバス停であった。私は途中から登山道をはずれて、かなり急な傾斜を下りてきたらしい。

(教訓その3。ルートは間違えるべからず)

その後、(またしても)道を間違えたりバスを逃したりで、6キロほど歩いて「払沢(ほっさわ)の滝」に着いた。凍った滝が美しい。岩肌にはつららがたくさん垂れていて迫力があった。氷の間を水が流れ落ちている。しばし自然による造形物を堪能。満足して帰途についた。
以上が単独行の顛末である。おっかなびっくりだったが、スリリングで楽しい1日でもあった。

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