第7回  「枯葉色グッドバイ」

タイトル  枯葉色グッドバイ
著者   樋口 有介
出版社  文藝春秋社

(あらすじ)
東京都内のマンションで親子3人が惨殺された。事件から半年が過ぎ、吹石夕子巡査部長は難航する捜査に歯噛みしている。そんな時、女子高校生が代々木公園で殺された。彼女は、親子3人殺害事件の生き残り、美亜の友人だった。2つの事件に関連があると考えた吹石は、代々木公園に出向き、ひとりのホームレスを見かけて驚く。彼は、椎葉明郎。かつて有能な刑事であり、吹石に逮捕術を教えた教官でもあった。

吹石は非公式に、いささか強引に、椎葉を捜査に協力させる。椎葉は、美亜の家には秘密があると勘を働かせ、かたくなな美亜の心を開かせる。一方で、女子高生殺しの内偵を進める中、思いもかけない事実が次々と明らかになる。捜査が進むうちに吹石は、椎葉に惹かれていくが・・・

(ひとこと)
殺人事件、家庭の秘密、女子高生売春、ホームレス。暗く、重い材料の割には、タイトルにある「枯葉色」にふさわしく渋くて淡い筆致で描かれている。好感のもてる一冊だ。
椎葉はアル中であり、ふところに焼酎をしのばせてはいるものの、一向にアル中らしくない。ひとつはアル中としての肉体的、精神的な苦しみが描かれていないから。もうひとつは、頭と体の働きが正気な人間のそれとして描かれているから。そう、リアリティに欠けるのだ。本物はもっと悲しくて汚くてだらしなくて情けないから。まあ、彼の場合ホームレス歴、アル中歴ともに1年なので、まだ進行してないという見方もできよう。そんな見方ができるのは、同じアル中だけだろうけど。
椎葉と吹石のキャラクターは、ともに好ましい。椎葉はやさしくてフェミニストだし、28歳独身の吹石夕子は仕事に一途で、意地っ張りで不器用だ。
ラストシーンでは椎葉に向かって「酒、やめなさい。あなたならできる。一緒にやろう!」と言いたくなってしまった。ああ、どんな本も「アル中の視点」から読んでしまうなあ。

・ スリップ防止度 ☆
・ 飲酒欲求発生度 ☆☆☆☆(焼酎党の方、ご注意を)
・ 総合評価 ☆☆

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