第3回  「流さるる石のごとく」

タイトル 「流さるる石のごとく」
著者 渡辺容子
出版社 講談社 ※講談社文庫版で読みました

(あらすじ)
速水圓(まどか)は、大富豪の娘で、夫は医者。長身で美貌。ダイヤモンドのコレクター。しかし、アルコール依存症で窃盗癖をもつ。夫に強く勧められて自助会へ出席し、妹のアルコールで悩んでいる「キャスリーン」と名乗る女性と知り合う。が、彼女は圓と会ったその日に近くのマンションの屋上から転落死してしまう。その10日後、キャスリーンの妹が圓のもとにあらわれ、アルコール依存症だったのは、キャスリーン当人だったことを知らされる。その最中、「夫を誘拐した」という電話が入り、圓は夫をとりもどすために酒を断ち、必死に奔走するが・・・

(ひとこと)
おもしろい。誘拐事件だけでなく、いくつか、ほかの謎がからみあい、「どうなる、どうなる」というサスペンスものの王道をいっている。なにより、活字の世界で「女のアル中」が主人公というのがめずらしい。しかも美貌で金持ち。
小説としては充分楽しめたし、アル中の姿もなかなかリアルに描かれている。しかし、アル中の観点から、少々言わせていただきたい。まず、「アル中はそんなに簡単に回復しません」、ということ。あと、最初にでてくる自助会「アメジスト倶楽部」の描かれ方。バリバリ飲んでいる現役アル中の目線で描かれたものだから仕方がないとは思うものの、これでは、自助会そのものの印象がものすごく悪くなってしまう。後でなんとかフォローしてほしいところ。アル中は自助会なくしては回復しないし、回復していく過程こそがいちばんドラマティックなのだから。
本書は、1995年江戸川乱歩賞の候補作になったが、藤原伊織の「テロリストのパラソル」に競り落とされてしまった。「テロリスト~」も、アル中本だけれど、私は、断然、今回紹介させていただいた本書のほうに軍配をあげる。ちなみに、彼女(というのも失礼? 渡辺氏)は次の年「左手に告げるなかれ」で、きっちり乱歩賞を受賞した。

・ スリップ防止度  ☆☆☆☆(ヒロインもすでに飲むのが苦しそう)
・ 飲酒欲求発生度 ☆☆
・ 総合評価 ☆☆☆

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