新・「アル中本」を読もう! 失踪日記 アル中病棟(失踪日記2)<第10回> (吾妻ひでお)

タイトル 失踪日記 アル中病棟(失踪日記2)<第10回>
著者 吾妻ひでお
出版社 イースト・プレス

【読みながら、思うことを少しずつ(8)】

「アル中病棟 失踪日記2」

アル棟26 外泊

入院中のプログラムで自宅に1泊して病院に戻る「外泊」のプログラムの際、ワインクッキー(ワインフレーバーのクッキー?)を食べているのを奥さんに見咎められて、スリップしそうになるが、AAへ行って酒から逃れる。ビジネスミーティングという、普段のミーティングとは違う、グループの運営会議の日だったが、AAのメンバーは暖かく迎える。吾妻氏は献金に10円しか入れることができず、「金がないと人間卑屈になるなあ」と感じて自分の手書きの漫画を「まんだらけ」で売ることに。

AAはお金がないときは献金しなくて全然構わない。メンバーも新しい人に対してはもう少し気を使ったほうがよいのかもしれない。酒がとまってある程度、時間が経ってくると「ないときは(献金のことは)気にしなくてもいいんだ」と思えるようになるが、酒がとまって間もない人はその辺が感じ取れるようになるまで時間がかかるだろう。

アル棟27 退院

これが最終章。前章の「まんだらけ」。絵は買ってもらえることになった。店員さんが「サイン書いてください」というのだが、私は長いこと「領収書にサインしてください」ということだと思っていた。つまり店員は売り手が吾妻氏本人だと知らなかった、と思っていたのだが、よく読むとそうではなくて、漫画家・吾妻氏と知っての上で、「サインが入っていないから、ここに入れてください」と言っていることが分かった。それで、周りの客がジロジロ見ているのだ。数回読むまで気づかなかったが、吾妻氏が「落ちるところまで落ちた」と感じたのがよく理解できた。

退院時、入院仲間とアドレス交換するときに「ペンネーム教えてください」と言われ「吾妻日出夫でわからなきゃ、吾妻ひでおも知らんと思う…(P322)」と複雑だ。読んでいる分にはおもしろいが。

ラストシーン、P325、326、327は圧巻。1ページ1コマを大きく使って、大勢の人が歩く街の風景の中、歩いている吾妻氏の姿が描かれる。ラストシーン、3ページ目で「不安だなー 大丈夫かな? 俺…」とつぶやく吾妻氏。これで物語は終わる。漫画という表現方法がうらやましくなった。1ページの絵に1行のセリフでこれだけのことを表現できるのだから。

まとめの感想

…と、ここまで、吾妻ひでお氏の傑作「失踪日記」「アル中病棟(失踪日記2)」の読書感想文のようなものを長々と書かせてもらって、楽しかった。また、かつての自分のことを思い出させてもらってありがたかった。

ちなみに、アル中にはアーティスティックな才能を持つ人が多かった、と最初のほうで書いた。なかなか書ききれるものではないので、絵ということで思い出した2人の方のことを書いてみる。

アルコールデイケアで知り合った男性が鉛筆で私の顔をスケッチしてくれた。すごくうまくてビックリ!完成したら絵をもらうことになっていたが、いつまでたっても完成せず、結局もらえなかった。デイケア卒業後、会えなかったが、あだ名が「画伯」だったのでもしかして…。

もう一人は、一時期AAのミーティングで毎週顔を合わせていた男性で、ある時「絵を描くのが好きだ」とぽつりともらした。見せてくれるように頼むと、スケッチブックを開いてくれた。そこには飼っていた犬の絵が描かれていた。繊細なタッチの鉛筆画で、今にも動き出しそうな犬の姿が描かれており、驚かされた。おふたりとも当時、使えるお金はあまりなかった印象だけれども、鉛筆一本で見せてくれた才能はすばらしかった。

自助グループの世界では「歌がうまい」人の割合も高い。…これはまあ、みな、カラオケに大金つぎ込んできたらなあ、というのもあるけれども、いくらつぎ込んでもうまくならない人も大勢いるわけなので、やはり芸術、芸能方面、アル中は得意、としておきたい(笑)。

酒を手放したアル中が、すぐれた作品を世に出してくれている例は少ない。吾妻氏のこの2冊は本当に貴重だ。これから多くのアル中が酒を手離して、才能を無駄にしないで活躍してくれることを切に願う。

(記:2023年5月25日)

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