新・「アル中本」を読もう! 失踪日記 アル中病棟(失踪日記2)<第9回> (吾妻ひでお)

タイトル 失踪日記 アル中病棟(失踪日記2)<第9回>
著者 吾妻ひでお
出版社 イースト・プレス

【読みながら、思うことを少しずつ(7)】

「アル中病棟 失踪日記2」

アル棟21 拘禁ストレス

この辺になってくると吾妻氏が元気をとりもどしつつあるのが感じられる。入院仲間の小林さん、見た目がよくて弁が立ち、会社では高給取り、アル中仲間の間でも人望もある人、として描かれているが、彼が「診断書にアルコール依存症と書かれた。保険がおりないから肝臓障害と書いてくれといったのに。担当医のことを信頼していたのになあ」と慨嘆している。この辺のズレが実にアル中である。診断書の記載について自分の都合に合わせてくれ、と頼むくらいのことは、誤ったこととはいえ、普通の人もやるかもしれない。でも、そこで「担当医に裏切られた」というような思いを抱くのはおそろしく幼稚だ。このへんが彼の生きづらさの原因なのだろう。アル中あるある、である。

アル棟22 Cミーティング

病院のプラグラムで「セルフケア自己評価表」を書いたときのお話。実は、表紙の裏に吾妻氏直筆の評価表が掲載されている。当事者の多くは、共感するはず。 家族に見せてください、というのが病院から指導だが、吾妻氏は「うわあ、きっつ。俺は見せなかった」とある。これ、見せてなにを言われても受け入れられる、というか「とりあえず我慢する」とする腹が決められれば家族との関係がぐっとよくなる可能性が高くなる。実際吾妻氏がこうして公表できたのも(当然家族にも見られるだろうし)回復の証にほかならない。

アル棟23 深大寺レク

病院のレクリエーションでお弁当もって深大寺に。多分、近隣の観光地や憩いのスポットに皆で出かけるのはどこの病院にもあるプログラムだ。参道のお土産屋さんで「ぐい呑み」を見て「一生呑めない体になっちゃったわけね」と複雑な気持ちになったり、酒とは思わずに甘酒を飲んでしまった患者がいたり、と、外界と接したときの軋みのようなところがほろっと描かれている。

アル棟24 治療ミーティング

退院前の体験談発表。うなされるほどギャグを考えたけれども結局、普通に話すことにした吾妻氏。これが回復!!

アル棟25 心の空洞

断酒後の時間の使い方は誰にとっても大問題だ。一般人は「お勤め」を考えるが、吾妻氏のような自由業は本当に大変だと思う。結局、少しずつ描きはじめた「失踪日記」が吾妻氏の断酒を支え、代表作となった。アル中にとっては断酒が最重要事だが、そこさえ押さえておけば、心身の状態の回復にともなって、仕事、家族との関係(原家族とも)、社会とのつながりも徐々に回復していく。失って戻らないものも多々あることが普通だが、今、居る場所、現状を目をそらさずに受け入れて一歩ずつ歩いていくしかない。私の「心の空洞」は、自助グループでの活動を通して、あっという間に埋まった。

あと1、2回、続きます。
(記:2023年5月22日)

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